悪くはないが、台本がごちゃごちゃ〜『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ネタバレあり)

 ティム・バートン監督最新作『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を見てきた。同名小説の映画化である。

 主人公はフロリダに住む少年ジェイク(エイサ・バターフィールド)。ポーランド出身、ウェールズ育ちで、小さな時からジェイクにさまざまな不思議な話をしてくれた祖父エイブ(テレンス・スタンプ)がある日変死し、その時にモンスターのようなものを見たジェイクはすっかりふさぎこんでしまう。精神科医のすすめでジェイクは父のフランク(クリス・オダウド)とウェールズに向かい、祖父エイブが子ども時代に暮らしていた児童保護施設を訪ねる。児童保護施設は第二次世界大戦時の爆撃で破壊されていたが、なんとそこには時空を操る能力を持つ異能者の女性ミス・ペレグリンが仕掛けた時間ループがあり、エイブの幼なじみの不思議な能力を持った子どもたちはループの中で子どものまま生き続けていた。ところが悪の異能者バロン(サミュエル・L・ジャクソン)がミス・ペレグリンの力を狙ってループを襲撃。自分にも不思議な能力があると知ったジェイクは皆を守るため戦いを始めるが…

 全体的に、いいところはたくさんある映画ではある。ウェールズのど田舎にあるお屋敷と、そこに住む不思議な力を持つ子どもたちを描いたファンタジーらしいヴィジュアルは見物だ。設定はナチスレジスタンス、ユダヤ人の戦いをモチーフにしているようで、悪の異能者バロンは明らかにナチスマッドサイエンティストだし、こっそり世界中を回って悪の異能者と戦っていたエイブはナチハンターと考えることができる。不思議な力を持つ子どもたちを守るため田舎にお屋敷を…というのはX-MENにそっくりだが、X-MENの脚本家のジェーン・ゴールドマンがこれも担当している。エヴァ・グリーン演じるミス・ペレグリンはかっこいい女性で、台詞も多く、ミス・アヴォセット(ジュディ・デンチ)との話などでどうにかベクデル・テストもパスする。鳥に変身し、子どもを守るために時間を操る力を持つインブリンは女性だけという設定なのだが、終盤でミス・ペレグリンが男性であるジェイクに子どもを守る任務を手渡すところがちょっと面白い。ジェイクは母性的、家庭的な要素を持つ少年として描かれていると思う。

 しかしながら脚本にはかなり問題があり、とくに終盤はプロットホールだらけである。ネタバレになるのであまり詳しくは言わないのだが、「モンスターが見える」という特殊能力はいつからどういう仕組みで発現したのかとか(バロンの年齢とか、いつ頃モンスターが生まれたのかとかがそもそもあんまりはっきりしない)、ループの仕組みと働きについて説明がなさすぎるのでブラックプールのループがいつからいつまでの時空をいじっているのかよくわからないとか、宿屋のおじいちゃんはなぜモンスターに目玉を食われたのかとか、モンスターが最後までバロンを食わなかったのはなぜかとか、なぜバロンは子どもたちを殺さないでのんびりしてるのかとか、突然やってきたジェイクにミス・ペレグリンが子どもたちの運命を託すのはなぜかとか、うやむやになっている点が多すぎる。よく考えるとどうにか理屈がつけられそうなところもあるのだが、話が進むたびにいちいち止まって考えないといけないので楽しみが削がれるし、ずいぶんと強引でわかりづらい。もっと脚本を整理すべきだと思う。