クロスジェンダーキャスティング、だがその効果は〜子供鉅人『マクベス』

 本多劇場で益山貴司(名前に間違いがあり、修正)演出、劇団子供鉅人『マクベス』を見てきた。104人もの役者が舞台に登場するというけっこう規模の大きい上演である。マクベス夫人を益山寛司(この方が演出家なのかと思ったら、名前が一字違いで兄弟らしい)、マクベスを億なつきが演じるというクロスジェンダーキャスティングが特徴だ。

 いいところはいろいろある上演である。マクベス夫妻の役者の性別を交換するというのはいいアイディアだし、とくに益山寛司の長身のマクベス夫人はむちゃくちゃ妖艶だ(衣装を使わないでマクベス夫人をふくめてあらゆる人物に化けた佐々木蔵之介のひとり『マクベス』には及ばないかもしれないが、それでも益山マクベス夫人は本当に綺麗で性格も強烈だった)。棚とか脚立とか日常的な家具が所狭しと置かれた舞台に大量の人物がわらわらと出てくる猥雑な演出もエネルギッシュである。ところどころ笑えるのもよかった。

 ただ、けっこういくつか疑問点もあった。冒頭の台詞にナチスとかジハードとかが織り込まれているのだが、この政治的なネタがあんまり機能していない。ちょっと和風だがいろいろ折衷の衣装であんまり政治的にどこの政府をイメージしているというようなところもないため、ファシズムとか狂信への言及は全然効いていないと思った。また、マクベス夫人に比べるとちょっとマクベスが弱く、台詞回しも最初はちょっと流れが悪いと思うところがあった。さらに最後のマクベスが殺されるところの演出があまり良くない。それまでは小柄でも極めて男男していた億なつきのマクベスが大量の群衆に服を剥がれてタンクトップ姿になり、女の身体を露わにするという演出なのだが、かなり性暴力を連想させる不気味で暴力的な殺され方で、ここでこれをやる意味が全然わからなかった。何をしたかったんだろう?