職人たちの手のひらの上で〜カクシンハン『夏の夜の夢』(ネタバレ多数)

 シアター風姿花伝でカクシンハン『夏の夜の夢』を見てきた。四角く黒っぽい舞台で背景は投影などを使用するが、基本的にかなりシンプルな舞台である。衣装は白と黒が基調だが、パック(真以美)はウエストポーチにちょっと色みのある服を着ており、犬みたいな耳をつけていて全体的に仕草なんかも犬っぽい(前にうちで飼っていた黒ラブのりんごを思い出した)。ぬいぐるみが凝っているのが特徴で、ロバはもちろん、恋の花までぬいぐるみで作られている。ドラムの生演奏がつく公演である。

 ポケット公演ということで90分に芝居を刈り込んでおり、職人たちの場面がほぼばっさりカットされ、ボトムのかわりにイジーアス(岩崎MARK雄大)がロバの頭をかぶせられてティターニアの恋人になる。しかしながらそのかわりに全体が劇中劇の枠におさまる(と言っていいのかわからないが)という設定があり、アテネの職人たちが公爵夫妻のために芝居を演じ、配役を発表するというところから始まる。ライサンダーとかディミートリアス、ヘレナ、ハーミアなど全員の配役がなぜかボトムに割り振られ、そこから芝居が始まる…ということで、どうやらこの『夏の夜の夢』は全部職人たちのアマチュア芝居であるらしい。実は私は以前から、『夏の夜の夢』の職人を全部カットしたらどうなるんだろうということに興味があったのだが、これは実にうまいやり方だと思った。枠をとじるところではいきなり戦争モノになったり(これは私の好きな『天才マックスの世界』の学校劇のシークエンスにちょっと似た感じだった)、『2001年宇宙の旅』やら『ローマの休日』のオマージュになったり、いつのまにか年をとってしまった公爵夫妻が出てきたり、まるでアマチュア芝居を見ている間に職人たちの手のひらの上で夢を見て年取ってしまったみたいな気分になる。さらにまた終盤で冒頭の配役の場面に戻って、お客さんが洗濯機とか妙な役を振られて終わりというふうになるので、まるで今までの『夏の夜の夢』はお客さんが職人たちとして上演していたのか…みたいな雰囲気になる。前回のカクシンハンポケット公演『じゃじゃ馬ならし』でもかなり強い枠があったのだが、この『夏の夜の夢』も全部を劇中劇にしてお客さんに夢を見せるという演出がはっきりしていて、そこが面白いと思った。

 枠の中の芝居は役者が飛んだり跳ねたり動いたりする大変エネルギッシュなもので、笑うところもふんだんにある。奇抜な演出だが、恋人たちのケンカのドタバタ騒ぎはストレートに笑えるようになっていたと思う。吹っ飛んだりケンカしたり大忙しのヘレナ(岩崎MARK雄大)と、なぜか途中から半裸で格闘家みたいになるハーミア(河村岳司)が大活躍だった。ちなみに今回のプロダクションではロバのイジーアスとティターニア(葛たか喜代)がセックスするのだが、ちょっと前に見た文学座附属演劇研究所版でもロバと妖精の女王がセックスしており、ここ1ヶ月で2回もそういう演出を見たことになる。今まではこういう演出は1、2回しか見たこと無かったのだが突然これなので、ひょっとしたら空前のケモナーシェイクスピアブーム到来(?!)なのかもしれない。ただ、シルエットを使ってかなり色っぽくしてあった文学座附属演劇研究所と、なぜかボディビルダーが出てきて「気持ちいいですねー」とか言ってセックスを誤魔化す(!?)おちゃらけたカクシンハン版はかなりこの場面の印象が違った。