創造性と文化交流〜『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』

 モーガン・ネヴィル監督の音楽ドキュメンタリー映画ヨーヨー・マと旅するシルクロード』を見てきた。ヨーヨー・マが世界各地の才能ある音楽家を集めて協働で演奏を行う「シルクロード・アンサンブル」プロジェクトを追った作品である。

 凄くポジティブな音楽ドキュメンタリーで、ヨーヨー・マを中心にした才能溢れる国際色豊かな音楽家たちが互いの文化や伝統を持ち込むことにより素晴らしい演奏が生まれていく様子を楽しく撮った作品である。ヨーヨー・マも仲間たちも、音楽が世界をつなぎ、平和や理解などに貢献できるというような理想を心のどこかで信じていて、信頼や理想が崩れそうになってもプロジェクトを継続していく様子は見ていて元気が出る。

 メンバーの音楽家たちはたいへんな状況を生き抜いてきた人々で、はっきり言って理想を持って音楽を続けられているのが驚異的とすら思えるようなひどいめにあってきた人たちばかりだ。ケマンチェ奏者のケイハン・カルホールは政情不安のせいで家族を失い、イランにも住めなくなっている。クラリネット奏者のキナン・アズメは紛争で故郷シリアに帰れなくなった(最近はトランプの入国禁止令でアメリカに帰れなくなりかけたらしい)。ピパ(琵琶)奏者のウー・マンは文化大革命を生き延びるために親に音楽を習わされたらしい。ガリシアバグパイプであるガイタ奏者のクリスティーナ・パトはファンキーで才能豊かでまるでロックスターみたいなミュージシャンだが、ガリシア地方は文化的には豊かだが経済的には貧しく疲弊していて、グローバル化の中でガリシア人としてのアイデンティティを保つのが難しくなりつつある。それでもこの音楽家たちは理想を持って交流しあうことで自分のルーツを守り、かつ他の文化の人々と調和させるということにチャレンジしており、その様子が生き生きと描かれている。ただ、これは全員が創造性に溢れたプロだからできることだと思う。結果としてできあがった演奏は素晴らしいものである。

 ただ、ひとつ思ったのは、もう少し人集めの過程を描いてもいいんじゃないかということである。いったいどういうネットワークを使ってこれだけ多くの地域から才能あるミュージシャンをリクルートしているのか(暴力に対して音楽で戦いを挑む人たち集めてるので、リクルートっていう言葉が逆説的にふさわしい気がする)、素人目には大変難しいことをしているように見えるのだが、そういうところはあまり記録されていない。途中でちょっと出てくる、サン=サーンスの「白鳥」でヨーヨー・マとコラボしていたダンサーのリル・バックはフェイスブックYouTubeのせいでヨーヨー・マと仕事するようになったらしいのだが、ミュージシャン集めはいったいどういう人脈でやっているのかをちょっと知りたかった。