どうしてこうなった…説得力ゼロの珍作『パッセンジャー』(ネタバレあり)

 『パッセンジャー』を見てきた。他の惑星に120年かけて冷凍冬眠で移住する旅客船を舞台に、たった30年で目覚めてしまったジム(クリス・プラット)とオーロラ(ジェニファー・ローレンス)を軸として展開するSFである。

 最初の30分くらいはすごくちゃんとしたSFだし、美術は全体的に大変よくできている。しかしながらジムが一目惚れしたオーロラの冬眠ポッドをいじくって起こそうとし始めるあたりから脚本が大暴走し、「どうしてこうなった」みたいな珍作になってしまった。終盤の展開はご都合主義ばっかりで説得力ゼロである。

 一番大きなプロットの問題点としては、ジムは自分の邪な恋心のためにオーロラの人生を変えようとしたストーカー野郎なのに、この映画ではジムが狂気に陥った怖い人としては描かれておらず、最後はなんかオーロラとくっついてしまうというところである。あんなに怒っていたオーロラがジムを許して一緒になるという異常にセンチメンタルなオチに全く説得力が無い。人間の業とか狂気を描こうとしたんならあんなロマンスっぽい演出にはできないはずだし、ロマンスとしては完全に話の筋道がおかしい。しかもこの意味不明な展開はちょっと脚本を直すだけですぐ解決しそうなので、なんでもうちょっと脚本をいじくらなかったのかと思ってしまう。これを見た後、いつもやっている映画鑑賞研究会で友人の研究者と話したのだが、2人で考えるだけで4つくらいはパッと修正方法が思いついた。以下がその時思いついた脚本修正案である。

解決法(1) ちゃんとしたロマンスものにする(これが一番、たくさん変更が必要)。
 ジムが冬眠ポッドベイのコンソールかなんかから自分のポッドの故障の原因を探っている最中、コンソール近くにいた冬眠中のオーロラを可愛いなと思う。ジムはコンソールを無駄にいじくって原因を探るが、できなかったので諦めて放置する。しかしながらジムがコンソールをいじったせいで知らないうちに整備不良が起き、数日中にそれが原因でコンソール最短のポッドだったオーロラが起きてしまう。事情を知らないジムは喜び、2人は恋に落ちる。しかしながらガス(ローレンス・フィッシュバーン)が起きた後の調査で、ジムの過失による整備不良でオーロラが起きたと発覚する。オーロラは激怒し、ジムと別れるが、最後、協力して問題を解決し、オーロラはジムの過失を許す。

解決法(2) 恐ろしいストーカー行為とその贖いの話にする。
 ストーカー行為を後悔したジムがオーロラに謝って彼女を助けるため盛大に死に、オーロラはガスが持っていた権限を使って冬眠に入り、新しい惑星に無事到着する。

解決法(3) 復讐劇にする。
 ジムが船を助けるため船外に出て、外に放り出されてしまう。オーロラはジムを助けようと宇宙服を着て船外に出るが、ふっと顔が曇り、遠ざかっていくジムを助けるのをやめる。ジムは宇宙に彼方にポイ。微妙な笑みを浮かべるオーロラ。船内に戻り、1人で強く生き、後世にメッセージを残して老いて死ぬ。

解決法(4) とことんホラーにする。
 ジムは船を助けるために死に、オーロラは1人船内に取り残される。1人で強く生きていこうとするオーロラだが、だんだん寂しさで精神に異常を来し、1年後くらいに他の人のポッドをいじっている(=つまり誰かを起こそうととしている)ところで終わり。

 とりあえずこの4つのうちどれかにしていれば一応、全体的に筋の通った話になったのではないかと思うのだが(たぶん他にも解決法はあると思う)、今のままでは本当に何だかわからない話だ。ただ、これ以外にもいろいろ問題はあり、出てきて権限を行使して死ぬだけみたいなガスのキャラクターは一体何なんだとか、長期旅行で節約しないといけないのに冬眠中のポッドベイに常に電灯がついているのはなぜかとか、アンドロイドのバーテンが秘密をもらしちゃう展開がおかしいだろうとか、脚本には山ほどツッコミどころがある。美術にお金とアイディアを注ぎすぎて脚本はどうでもよかったのだろうか…ちなみに、女性が1人しか出てこないため、ベクデル・テストはパスしない。