国立新美術館「ミュシャ展」

 国立新美術館で「ミュシャ展」を見てきた。「スラヴ叙事詩」の一挙公開ということだったのだが、正直、「スラヴ叙事詩」シリーズはデカいだけであんまり心に響かなかった。個人的な好みの問題なのだが、画面の大きさのわりにはちょっと平面的だし、着ているものとか木の材質とかの質感があんまりないわりにそこまでシュールレアリスムとかファンタジーってわけでもないので、そんなに美的に面白いとは思えなかった。小さい画面を巧みに処理しているサラ・ベルナールとかのポスターのほうがずっと完成度が高いし、こういう女性を描いたポスターみたいな小さい作品もデカい歴史画と同じくらい重要なものとして評価されるべきだと思うので(ポスターだから、壮大なテーマを扱っていないから、美人画だからという理由で軽視するべきではない)、ミュシャはポスターの画家ってことでいいのではという気がする。さらに、「スラヴ叙事詩」もポスター類もどちらもイデオロギーの絵画だと思うのだが、「スラヴ叙事詩」のイデオロギーはスラヴ民族の偉大さとかナショナリズムである一方、ポスター類のイデオロギーは美しいものをみんなに届けることだ。やたらキレイな女性ばっかり書くことのジェンダー的問題とか、美のコモディティ化みたいなのはどうなのかっていう問題はあるかもしれないが、それでも私は前者より後者のイデオロギーのほうがずっと政治的に面白くて革新的な考えだと思う。