しょせん、家長の感傷〜『美しい星』(ネタバレあり)

 吉田大八監督『美しい星』を見てきた。三島由紀夫の小説『美しい星』を映画化したものなのだが、主人公は高等遊民からテレビのお天気キャスターになっており、核兵器じゃなくて地球温暖化などの環境問題が人類の危機として問題になっている。自分たちは宇宙人だと信じて「覚醒」してしまった家族の物語である。

 正直、全然面白く無かった…ひどい映画だとか出来が悪いとかいうわけではなく個人的な趣味の問題と思うのだが、いろいろ疑問が出てきてしまった。

 とりあえず、作劇上のテクニックで気になったところとして、亀梨和也演じる一雄のストーリーがひどくつながりが悪いというのがある。一雄がエレベーターに乗る場面の後には最低、もう一場面あるべきだと思うし、他にもいろいろ一雄の話は説明が足りない気がした。

 女性の描き方は全体的に薄っぺらい。原作では妻の伊余子も自分は木星人だとか言い出すのだが、映画の伊奈子は変な水にハマるけど地球人のままで、ひとりだけ最後までちょっと冷静だ。これだと伊奈子が家庭を守っている健気な母みたいに見えるのがよくない。娘で自分が金星人だと思い込む暁子の描き方はかなり薄い。あの性格でいくら美のためだからと言っていきなりミスコンに出るわけないと思うし、昏睡強姦による妊娠まで受け入れちゃうあたり、あまりにも母性推しすぎる。あと、重一郎と不倫しているテレビ局の部下、レイナは色気で重一郎を誘惑する一方、重一郎の地位を狙っているという設定で、いくらなんでもミソジニーがひどすぎる。一応、ベクデル・テストは伊余子と暁子のお茶に関する会話でパスするのだが、女性の描き方は全体的に全然良くないと思った。

 オチの付け方には家族に対する信頼がすごくあって、私はここも大変、気に入らなかった。とくに最後のカットは結局、家長である重一郎の感傷かよ…と思ってしまった。重一郎は不倫をしていたのに妻にもバレず、病気になって最後は家族全員に熱心に看病してもらい、最後はアレとは、まったくいい気なもんだ。原作はもうちょっと家族に対して冷たく引いて見ているところがあり、終わり方もなんかもう少しすっきりしない感じでその点なんとなくクィアな読みもできる作品だと思うのだが、この映画は家族愛の強さみたいなものに寄りかかりすぎだと思う。家族のつながりをテーマにした日本のSFということでは去年、『団地』という凄く面白い作品があったのだが、あれに比べると全然、面白くないと思った。