墓場でつなぐ命〜『ローガン』(ネタバレあり)

 『ローガン』を見てきた。

 舞台は2029年、主人公であるローガンことウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は病気(たぶんアルツハイマーの一種だと思うのだが、なにぶんミュータントで非常に過激な発作が起こるのでそういう病名で描写していいものなのかよくわからない)になったチャールズ/プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)をメキシコ国境にかくまい、自分も病気になりつつひっそり暮らしていた。そこへメキシコの研究所で作られたミュータントでローガンの遺伝子を受け継いだ子どもであるローラ(ダフネ・キーン)が看護師ガブリエラに連れられて助けを求めてくる。嫌々ながらローラを保護することになるローガンだが…

 『グロリア』その他の子どもを連れて逃避行するアクション映画から大きな影響を受けた作品で、墓場をうまく使った展開とかも『グロリア』に似ている。この映画では中盤と終盤に2回、墓が出てくるのだが(プラス、映画中映画にも墓が出てくる)、どちらも古い世代のミュータントを埋葬しつつ故人の遺志を受け継ぎ、新しい世代の子どもを感情的に成長させるという機能を果たしている。墓場が命や考えを受け継ぐ象徴になるのだ。

 全体的に、スーパーヒーロー映画とは思えないくらい地味な見た目のサバイバルスリラーである。ローガンはとてもブルーカラーなヒーローだが、さらに映画の途中で田舎のブルーカラーの家族に会って歓待されるという展開があり、そのあたりの描写がやたらリアルだ(ものすごいバッドエンドになるのだが)。地味な見た目に泥臭いスリラー、最後は親子愛を絡めて壮絶な終わりに持って行くということで、個人的には非常に好みで面白い映画だと思った。

 ただ、ブルーカラーの現状やローガンに芽生える親としての責任感などがたいへん丁寧に描かれているわりに他のところはちょっと詰めが甘いところもある。たとえばガブリエラが殺害された後、ローラが車から現れるあたりのくだりはちょっとすっ飛ばしすぎで、ここでローラがガブリエラの死によりちょっと感情を学ぶみたいな展開にしないとダメだと思うし、さらにどうやって車に乗ったのかもよくわからない。細かく考えると脚本にいくつかアラがある。

 なお、この映画はベクデル・テストをパスしないのだが、その大きな理由のひとつはローラが前半ほぼしゃべらないからである。このローラがしゃべらないことについては字幕でわかりづらいセリフが一箇所ある。途中で泊めてくれた家の親父さんがローガンに「あの子いつからmuteなの?」と聞くのだが、これはローラは幼いころから口がきけない(mute)か?という質問だ。しかしながら表情からして、おそらくローガンはこのmuteを一瞬、mutant(ミュータント)かどうか聞かれたんだと思ってうろたえている。これは字幕ではよくわからないようになっていた。