ストラトフォード(7)18世紀のソーシャルメディア〜『悪口学校』

 ストラトフォード・フェスティバルの芸術監督であるアントニ・チモリーノが演出したリチャード・ブリンズリー・シェリダンの戯曲『悪口学校』を見てきた。英語圏では人気作で、以前一度見たことがあるので、あらすじはそちらを参照。

 サー・ピーターを演じるのはこのフェスをネタにしたテレビドラマ『スリングズ・アンド・アロウズ』に傲慢なスター、ヘンリーの役で出演していたゲライント・ウィン・デイヴィスで、このプロダクションで一番目立つキャラだった。若妻に夢中だが自分が選択を誤ったのではと後悔するおじちゃまをあたたかく、可愛く演じている。また、サー・ピーターはこの芝居でおそらく一番、倫理観がしっかりした人で、人の悪口を言ったりするのが大嫌いである一方、他人の恋愛スキャンダルを大目に見てあげるおおらかな心も持っている。このプロダクションではけっこう包容力のあるおじさまとして描かれているので、最後には結婚の危機を乗り越えて若妻のレディ・ティーズルとうまくいってほしい…と思わされる。

 最初に現代の服を着たデイヴィスが出てきて、舞台でスマホについてお客さんに注意をするというプロローグがある。これ以降の衣装やセットは全て18世紀風なのだが、全体として現代のソーシャルメディアを18世紀のゴシップ印刷物と重ねている。新聞の見出しだかソーシャルメディアの見出しだかわからないようなスキャンダラスな文句がセットの背景にプロジェクションで映し出されるなどという演出があり、ちょっとうるさいと思うかもしれないが私はけっこう好みだった。さらにゴシップのネタにされる人物としてショーン・スパイサーなども織り込まれている。このあたりは18世紀の急速に発達するメディア文化を現代につなげるという点でなかなか面白い演出だと思った。

 笑いのツボはちゃんとおさえており、ついたての場面ではお腹の皮がよじれるほど笑った。あと、スネイク役を女優が演じているのは以前バービカンで見た演出とけっこう違っている。冒頭ではレディ・スニアウェルがお着替えしながらスネイクと女同士のゴシップに興じるという演出になっており、ここはけっこう親密感があった。また、原作にあるユダヤ人差別的な側面はかなり薄められている。