ストラトフォード(9)少しダークで思いっきり笑える『十二夜』

 マーサ・ヘンリー演出の『十二夜』を見た。

 フェスティバルシアターの張り出し舞台を使い、奥には木を、前面には楽器を設置している。この楽器がくせもので、白っぽいガラスのボールを棒でこすって音を出すというもので、舞台を囲むように複数設置されていて、フェステ(ブレント・カーヴァー)がこれを使って音楽を奏でる。雰囲気はかなり独特である。

 全体的にはちょっとダークだがものすごく笑える演出で、細かい部分にけっこう説得力があり、好みが分かれそうだが私は好きだった。登場人物のキャラクターはけっこうしっかり考えられている。事前のトークでマーサ・ヘンリーが、オーシーノ(E・B・スミス)はデカくて暴君っぽいキャラにしたかったと言っていたのだが、このプロダクションのオーシーノは本当にマッチョで押しが強くてふだんから自分の意を通して当たり前と思っている有力者という感じだ。ずいぶんとワイルドなオーシーノなので、ヴァイオラがオーシーノに惹かれた理由はたぶんこの育ちがいいのにワイルドそうなところなんだろうなーと思って見ていた。ヴァイオラのおかげでだいぶ考えがやわらいだようだが、こんなわがままなオーシーノと、年齢のわりに成熟したヴァイオラがこれからうまくいくのか、若干不安になるような終わり方だと思った。一方でオリヴィア(シャノン・テイラー)は自分よりちょっと年下の小生意気でカワイイ系の男性が好きみたいなので(これまた身分が高くて自分の意志をいつも通してきた女の趣味だ)、こんなワイルドでデカいオーシーノは好みなわけないと思わず納得してしまう。このプロダクションでは、オーシーノほどじゃないが、オリヴィアもけっこう恋愛についてはわがままそうなところがある。ヴァイオラ(セイラ・アッフル)は私が今まで見た女優が演じるヴァイオラの中では一番、シザーリオになった時の様子が本当に男の子っぽい。もともとちょっと中性的な容姿や声をしている上、衣装の着こなしやメイク、髪型の助けもあり、まるっきり育ちが良くていきがってる少年に見える。ことさらに男に似せようとはしていないみたいで自然な感じがあり、それがまた良い。サー・トービーはゲライント・ウィン・デイヴィスが演じていて、ほんとに赤ら顔の酔っぱらいという感じだ。

 この上演で一番、見物なのはフェステである。ブレント・カーヴァー(プロダクションの後、ちょっとだけご挨拶した!)はトニー賞をとったこともあるスターで、歌もうまいし笑わせるのも上手で、飛び抜けて良かった。哀愁と優しさにユーモアと批判精神がプラスされた感じのフェステで、穏やかながらもオーシーノやオリヴィアの恋の病を鋭く諷刺し、さらにいろいろなところに出没するのでイリリア全体を有機的につなげ、観客と舞台の橋渡しをする役目もつとめている。ただ、ひとりだけ突出して個性的なので、楽器を演奏しながら音楽を奏でるところはちょっと舞台の時間が止まっているみたいな不思議な印象を受けることもあった。この効果は、舞台のアクションを止めてしまうという点ではあまりよくないのかもしれない。