年齢と訓練によって身につける人工的カリスマ〜『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(ネタバレあり)

 飛行機内でマクドナルド「創設者」レイ・クロックの伝記映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』を観た。

 「創設者」とカッコつきで書いたのは、実はマクドナルド1号店を作ったのはサンバーナーディーノのマクドナルド兄弟で、レイ・クロック(マイケル・キートン)はフランチャイズを成長させたあと、実質的に兄弟から会社を乗っ取ったからである。この映画ではミルクシェイク製造機のセールスマンからマクドナルドのトップまで上り詰めたレイの人生をほぼ美化せずに描いていて、アメリカン・ドリームの汚い側面がいっぱい詰まっている。レイはミルクシェイク製造機の大量注文をきっかけにサンバーナーディーノのバーガー店、マクドナルドを知ることになるのだが、そこの革新的なキッチン管理と人気ぶりにいたく驚き、フランチャイズ化を提案する。マクドナルド兄弟は半信半疑ながらもレイの熱意に負けて契約するのだが、それが運の尽き。どうしても店を成功させたいレイは、料理人としてのこだわりが多いマクドナルド兄弟が細かいところにチェックを入れて新製品の導入などに許可を出さないことに業を煮やし、不動産会社を別に設立してマクドナルド兄弟の影響力を排除にしかかる。最後はマクドナルドというブランド名をのっとり、マクドナルド兄弟の手に残った1号店までつぶしにかかるという悪辣ぶりだ。糟糠の妻エセル(ローラ・ダーン)とは離婚し、フランチャイズに協力してくれたロリー(パトリック・ウィルソン)の妻で、レイ同様鋭く成功を求める野心があり、美貌も才能も兼ね備えたジョーン(リンダ・カーデリーニ)を略奪する。

 そういうわけで、レイの行いにはあまり共感できるとか是認できるというところがなく、はっきり言って汚いしフェアではないと思うのだが、一方でそれまではそこそこ安定した暮らしをしていたもののたいして成功はしていなかったなんちゃって企業家みたいなおじさまが全てを捧げて最後の賭けに出て、それがうまくいってどんどんカリスマ企業家になっていく過程がドラマティックに描かれていて、映画としては面白い。マイケル・キートンの演技もあって、レイが倫理的にはとても是認できないが他人を納得させてしまうようなカリスマのある人物として説得力と魅力を持って提示されている。倫理的には問題あるが魅力的でヴィジョンを持った企業家を描いているという点では『スティーブ・ジョブズ』に似ていると思うのだが、面白いのは若い頃からおそらくキレッキレでナチュラルなカリスマを持っていたスティーブと違って、レイはおじさんになってある程度経験を積んでから人工的なカリスマを身につけるようになったということである。レイはいろいろな仕事を転々として苦労してきたようだし、またふだんから自己啓発の練習をしていて、彼が持ち合わせているカリスマはたゆまぬ練習と自己暗示のたまものだ。たぶんこの映画が物凄くアメリカンドリームの映画らしく見えるのは、レイはそもそもカリスマすら持っていなかったのに身につけられるようになった、というところなんじゃないかな…と思う。彼はギャツビーと同じで、自分で自分を作り上げた男だ。

 音楽や美術についても気が利いており、1950年代の雰囲気をよく表していて、時代劇としても楽しめる。60年ほど前にはアメリカにまだマックがなかったなんて、よく考えるとまあ当たり前なのだが今まで考えたこともなかったのでちょっと新鮮だ。なお、女性同士があまり会話しないので、ベクデル・テストはパスしない。