政治的背景をふまえた日本語版〜『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』

 『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』日本語版を見てきた。ビリーが前田晴翔、父のジャッキーが吉田鋼太郎ウィルキンソン先生が柚希礼音のキャスティングだった。

 イギリス版の舞台は生で一度映画館上映でも一度見たことがあり、台本も振付も音楽たいへん良くできたものだったのだが、日本語版はもとの舞台のサッチャー政権批判も全くカットせず、むしろ冒頭のニュース映像とかでもう少し日本人にもわかりやすいように提示している。それ以外の構成はほぼ同じだと思うのだが、日本版キャストは辛辣な政治諷刺にもひるまずにどんどん盛り上げていて感心した。

 日本版の工夫が面白いところとしては、炭鉱の人たちが福岡県あたりの方言をしゃべっていることがある。もとの舞台では北部イングランド方言を話していたのだが、このあたりの方言にすることで筑豊炭田三井三池炭鉱の連想が働くし、また日本の一般的な九州のイメージとして性別役割分担が強固だというのがあるので、頑固オヤジで息子がバレエをすることを認めたがらないジャッキーのキャラクター造形にも役立つ。子どもたちは若いので親世代よりちょっと共通語に近い話し方をしていたり、芸が細かい。あと、一瞬だけ出てくるロイヤル・バレエの男性ダンサー(グラスゴー出身という設定)はもうちょっと大阪あたりの関西弁っぽい話し方をしていたと思うのだが、台詞が短いので完全には判別できなかった。

 政治批判と芸術の力というテーマをうまく伝える楽しい舞台に仕上がっていたと思うのだが、ただまだ開幕したばかりだということもあって、子役の歌やダンスなどには少しこなれていないところがあったかもしれない。ただ、これは公演中に慣れてくるともっと良くなるかもと思った。