つまらない歴史叙述〜『ウィッチ』(ネタバレあり)

 『ウィッチ』を見てきた。

 舞台は1630年代のニューイングランド。宗教心が強すぎて入植地を追い出されたウィリアムとその一家は森の近くで新しい家をかまえるが、一番下の赤ん坊サムが消えるなど不可解なことが起こりはじめる。一家はこれは魔女のしわざではないかと疑うようになるが…

 ヴィジュアルはきれいだし、当時の裁判記録などを参考にしているという台詞もリアルだ。いろいろ盛り上がるところもあるし、つまらないわけではない(ベクデル・テストは母と娘の会話でパスする)。ただ、いろいろツッコミどころがあってそんなにすごく面白いとは思えなかった。まず、音の使い方が全体的に下手で、音楽をうるさく使いすぎだ。演出についても少し大げさかと思うところもあった。

 一番どうかなと思ったのは、全体的な歴史叙述の方針である。裁判記録を参考にしているということは、コチコチの信仰を持った法の執行者、不当な拘束や取調で神経がボロボロの容疑者、悪意や思い込みがあるかもしれない告発者の証言など、面白くともバイアスがかかりまくりの史料をもとにしているということだ。この映画にはそういう史料のバイアスみたいなものを批判的に見る視点がなく、さらにおとぎ話っぽい要素がリアルな表現に混ぜられていて、いったい何をしたいのかよくわからない。とくにヒロインであるトマシン(アニャ・テイラー=ジョイ)が最後、悪魔に取り込まれて全裸で魔女のサバトに参加し、空中浮遊して終わりというオチで、これだと17世紀の人が怖いと思っていたことをそのまんまやたらリアルに提示するだけになってしまう。バイアスかかりまくりの史料(おそらく事実ではなく、幻覚とか悪意とかに関係あるもの)を、歴史家的な批判的視点なしでそのまま「リアル」なホラーとして提示するというのは、私は正直、歴史叙述の方針としては面白くないと思う。たとえば魔女狩りはよく赤狩りとパラレルに語られるわけだが、赤狩りをこういうふうにバイアスかかりまくりの史料におとぎ話をまぜて映画化することはできないと思う。魔女狩りならOKと思うのは、ちょっと昔のことに幻想を抱きすぎという気がする。