コンセプトはいいが、台詞は改善の余地あり〜男肉 du Soleil『リア王』

 下北沢の駅前劇場で男肉 du Soleil『リア王』を見てきた。ほとんど何もない舞台で小道具も衣装もほとんど使わず、男優はたいてい上半身裸、女優も普段着のような格好で、それぞれの役柄を書いたタスキをかけて演じるというものだ。ひとつの役をいろんな役者が交代で演じており、リア王も二回くらい変わるし(リア王は一応、ツノのついたカブト…?のような王冠をかぶっている)、ケントはカイアスに変装する時から女性になる。テクストをばっさりカットしており、最初と最後にけっこう長い踊りがついて1時間50分くらいである。このため、エドマンドの画策とか中盤の展開の大部分は歌とかラップとかで説明されるようになっている。

 全体的に、これだけ人がバタバタ死ぬシュールな話なんだからブラックユーモアでまとめよう…というコンセプトになっており、全然、悲しくなく、最初と最後に変な踊りがあるのも含めて祝祭悲劇みたいな感じになっている。全く感情を表に出さずにすべての台詞を明るくさわやかに一本調子で言うエドマンドとか、決闘の場面ではなぜかみんな険ではなくでっかいハサミとガンダムみたいな盾を持っているとか、最後はなぜか突然ケントが死んじゃってオールバニが困ってしまい、ケントじゃなくそこらにいた無名の兵士に「これから頑張ろうな!」みたいなことを呼びかけるとか、全体的に不条理コメディみたいだ。このコンセプトはけっこう良いと思うし、エネルギッシュなブラックコメディにするため役者もみんな頑張ってる。

 ただ、メチャクチャなブラックコメディにするにはまだちょっと振り切れていないところがあると思った。とくに台詞は相当改善の余地があり、なんか関西のお笑いみたいなノリ(京都の劇団で、団長はもともとお笑いのバックグラウンドがあるらしい)のところは完全に滑っているところも多かったと思う。気になったのは最初の王国分割の場面で、ケントがコーディリアも含めた王の娘たちのことを「ブス」とか言う場面で、これは何が面白いのかさっぱりわからなかったし、だいたい少なくともゴネリルとリーガンは色っぽい中年女のはずなのでこれはおかしいと思った。さらにゴネリルとリーガンがコーディリアをバカにしようと「肉便器」とか言ったりするのだが、こういう陰湿な性格の政治家ふたりが妹にそんな直接的で下品な罵言を投げるわけないだろう。妙なミソジニーで笑いをとろうとしているせいであまりキャラクターの性格にあわない台詞になっており、このあたりはどうかと思った。女の容姿いじりで笑わせるようなレベルの低いギャグはいただけない。あと、たまに役者が台詞でつっかえたりもたついたりしているところが見受けられ、台詞回しの明確さの点でも改善の余地がある。ダンスと歌は全体的に下手だが、まあエネルギーでよしとしよう。

 なお、この上演は珍しく全編撮影化、上演中ツイッターとかインスタグラムに投稿するのも可能だ。この試みはけっこう面白いと思った。だいたいこんな感じのヴィジュアルの舞台である↓