日本語化がちゃんとできておらず、面白くない〜新国立劇場『ミカド』

 新国立劇場で『ミカド』を見てきた。びわ湖ホールからの招聘公演で、演出・訳詞は中村敬一。

 ちょっとデフォルメした日本ふうの服装にやはり日本風の背景が設置され、後ろにはいろいろな日本の風景の画像が場面に応じて映し出されるという美術になっている…のだが、正直この日本の風景を映し出す背景は全然、機能してない。背景のチョイスが非常にいい加減で場面や歌とあってないものも多いし(とくにカティシャが歌うところで雪の風景が出てくるのは歌とあってなくて良くない)、全体的に風景がベタな観光地みたいなのばっかりで、デフォルメだとしても面白くはない。さらにストリートミュージシャンを演じるナンキ・プーの服装が異常に古くさく、現在の若者らしいところがみじんもない。あれでなぜ現代娘のヤムヤムが惚れたのか疑問である。着物姿の女学生たちが出てくるところでやたら作り込んだバス停がたくさん出てくるのは良かったが、それ以外の美術や衣装については非常に疑問だ。

 一番問題なのは日本語訳がひどいということである。歌は日本語なのだが、日本語の音の数とメロディがひどくあっておらず、とくにのばす音の処理に問題がある。「JK」とかメロディにのせると聞いた瞬間に判断するのが難しい流行語が使われており(「JK」なんて字幕に女子高生だと注釈がついてる)、寒い上にわかりやすさを妨げてる。さらにLord Executioner(「処刑大臣」)が「最高指導者」と訳されており、なんでそんなわざわざつまんなくなるような訳語にするのかよくわからない。さらに女学生の歌は「学校帰り」の「JK」だと訳されていたが、彼女たちは学校を卒業して結婚のため帰ってきたのであって学校帰りでもJKでもない。女学生の歌は全体的にものすごく日本語の音の数とメロディがあってなくて(いきなり「ミッションスクール」が出てきて無理矢理音をあわせてたりとか)、訳詞に非常にセンスがなかったと思う。先週のちちぶオペラ『ミカド』の訳詞は、秩父の地元ネタを盛り込みまくっていたがそこまでメロディと不釣り合いというわけではなかったと思うので(たまに英語で逃げてたが)、比べるとどうしても見劣りする。

 全体的に諷刺もぬるく、ジョークもそんなに面白くない。これまた秩父と比べてしまうが、秩父のほうはまあ政治諷刺はぬるかったけど秩父の地元ネタを盛り込んで笑わせるようにしていて全体的にジョークに統一感があったのだが、こちらの上演はたまに「共謀罪」とか「JK」とか時事ネタっぽいものが無造作に突っ込まれているだけであまりジョークに統一感がなかった。歌詞はかなり変えられており、最初の歌はクールジャパンっぽい始まり方になってたりもするのだが、時事ネタをたくさん盛り込めるはずの処刑対象者リストの歌はそこまで変えられていなかった。あと、カティシャがけっこう色っぽい中年女なのだが(これは良かった)、これを「ブス」とか形容して笑わせようとしており、そんなにブス作りってわけでもない女を「ブス」とか言って笑わせようとするのはどうかと思う。ミカドの偉そうな発言をカティシャが邪魔する「ミヤサマミヤサマ」の歌もあんまり笑える演出にはなっていなかった。