まあまあの翻案〜『アントーニオとシャイロック』

 同時進響劇『アントーニオとシャイロック』を見た。『ヴェニスの商人』の翻案で、アントーニオとシャイロックに焦点をあてて二人の葛藤を描くものだ。内容は相当に変更されている。

 設定はかなり変えられており、バッサーニオはアントーニオの後見人ではなく、父が違う弟になっており、さらに芝居で一番の悪役になっている。バッサーニオはアントーニオもポーシャも愛しておらず、シャイロックを甘言で釣って借金しようとし、アントーニオが裁判にかけられても助けようとしない。アントーニオはユダヤの金貸し排斥を訴えて選挙に立候補しており、さらに暗い過去まである。シャイロックのせいで夫が自殺し、恨みゆえに娘のジェシカを狙うイザベラというキャラクターも登場する。

 同時進響劇ということで、舞台を真ん中で区切って、アントーニオの話とシャイロックの話が両方同時に進行する。映画のスプリットスクリーンに近いやり方の演出である。そんなに新しいというわけではないと思うが、たまに双方の登場人物が同じ台詞を言ったり、いろいろ工夫がなされており、そのあたりは面白い。オリジナルの音楽が全体を盛り上げている。
 
 翻案としてはけっこう面白いと思うのだが、たまに疑問もある。イザベラがユダヤ教徒に改宗して家庭教師になっているとかいうあたりはちょっと強引すぎる。さらに最後、ポーシャが夫バッサーニオの奸計を暴いて裁判の場に飛んでくるのだが、ここがあんまり機能しているように思えない。最後、アントーニオもシャイロックも平等に不幸になるというオチの表現はけっこう良かった。