メキシコ革命と初期映画を取り入れた楽しい演出〜グローブ座『から騒ぎ』

 グローブ座でマシュー・ダンスター演出『から騒ぎ』を見てきた。

 この演出の特徴は時代設定が1914年、革命期のメキシコだということだ。衣装や音楽もメキシコ風のカラフルで華やかなものだ。セットは鉄道貨車みたいなものを背景に置いていて、これを使って立ち聞きの場面などが演出される。軍隊が帰ってくる場面は、竹馬を使った簡易な針金の馬で表現される。

 1910年代のメキシコということで、男も女も銃を持って戦う気満々でたくましい一方、名誉についても高い評価基準を持っている。ステージの二階には空き缶などが置かれていて、男も女も暇さえあれば銃で空き缶を撃つ遊びをしている。さらにこのプロダクションではドン・ジョンにあたる人物が女性でドンナ・フアナ(ジョー・ドッカリー)という設定なのだが、フアナも革命軍と一緒に馬に乗って女性兵士として凱旋してくる。一方で結婚式やパーティに出るためスカートを履いたフアナは非常に居心地が悪そうで、どうもフアナは伝統的なジェンダーロールに合わないタイプの女性らしい。そういうタイプを悪役にするのはどうかなーとも思うのだが、役者の演技がいいのもあってまあ機能はしている。

 ビアトリス(ビアトリス・ロミリー)とベネディック(マシュー・ニーダム)は面白おかしい陽気な恋人たちで、鉄板の面白さだ。とくにベネディックは、ビアトリスが自分に恋していると誤解して恋の罠にかかった後、それまではあまり服装にも気をつけずラフな格好をしていたのに突然別人みたいな様子で現れるなど、笑いを誘う。一方でビアトリスがベネディックが自分に恋していると誤解する場面は、普通他のプロダクションで見受けられるほどスラップスティックではなく、切ない恋心が表現されていて、かなりメリハリがつけられている。

 このプロダクションでとくに面白いのは、ドグベリー一行をアメリカのドキュメンタリー映画作家チームにしたことだ。監督で、ディレクターズチェアを手放さないベリーはまったくスペイン語がしゃべれず(設定では英語が「スペイン語」ってことになっている)、そのせいでとんでもない言い間違いをする。メキシコ人たちはアメリカ人をアホっぽいと思っており、原作ではエチオピア人とか別の民族をバカにする台詞はほとんど全部アメリカ人をバカにする台詞に置き換えられている(これはたぶんアメリカ人のメキシコに対する壁建設案その他の差別意識を皮肉ったもの)。そんなおバカなドグベリーだが、ドキュメンタリーフィルムを回している時に偶然、フアナの陰謀について部下たちが話しているところを発見。慌ててフィルムをレオナートたちに見せようとするが、サイレントで音が入っていないので役に立たない。仕方がないので即席で字幕をつけて(この字幕をつける場面でもベリーが間違った単語ばかり言うのでなかなか進まない)、皆の前で上映して陰謀を明らかに…という展開になっている。これはモダナイズとしてはなかなか愉快だと思った。