舞台らしい演出に溢れたJ・M・バリのごっこ遊びの世界〜『ファインディング・ネバーランド』

 シアターオーブで『ファインディング・ネバーランド』を見てきた。基本的に映画『ネバーランド』に沿ったミュージカル舞台版である。J・M・バリが戯曲『ピーター・パン』を執筆していた時代を描くもので、史実からするとだいぶはしょっているところも多いのだが、デイヴィス一家の息子たちとバリが親しかったというのは実際の出来事に基づいている。

 歌も振付も話の展開もよく練られており、ケンジントン公園やエドワーディアンの劇場を模したセットもきれいだ。舞台特有のイリュージョンを駆使した演出が多く、大変面白かった。登場する劇団の大人の俳優たちが最初、『ピーター・パン』で子どもや妖精やイヌを演じないといけないということで困っている…ものの、ノッってくると全然不自然に見えなくなってくるあたり、これこそ舞台の醍醐味という感じだ。また、最後の風を使った演出にはうならされた。

 ごっこ遊びの重要性に非常に重点を置いた作りの作品だ。デイヴィス一家の息子のひとりピーターは父親が亡くなった後、すっかり遊びに興味を示さなくなって意気消沈していたが、スランプに陥っていたバリと出会って、海賊やら妖精やらが出てくるお話のごっこ遊びをすることで元気を取り戻す。しかしながら今度は母シルヴィアが重病にかかってまた人間や遊びへの信頼を失いそうになる。この作品には、想像力や遊びというのはつらい人生に立ち向かうための希望を与えてくれるものだが、一方で人生にはそれだけでは耐えられないほどつらいことが起こることもある…ものの、それでも遊びには人生を助けてくれる力があるのだ、というメッセ―ジがこめられていると思う。舞台というのは基本的にごっこ遊びなので、その意味では舞台とは何かについての作品であると言えると思う。ごっこ遊びがテーマということで、全体的にちょっとケンダル・ウォルトンフィクションとは何か―ごっこ遊びと芸術―』を思わせるようなところもある。

 映画よりもずいぶんとバリとシルヴィアの不倫のロマンスに重点を置いた展開になっており、その点ではオトナな話とも言える。バリとデイヴィス家の子どもたちの関係がどういう性質のものだったかはよくわかっておらず、ペドファイル的なところがあったのではないかという人もいるのだが、舞台版では全くそうは見えない演出になっている。バリとシルヴィアがキスしそうになったり、明らかにシルヴィアのせいでバリが離婚を検討しはじめたりするのだが、そのうちにシルヴィアが重病にかかってしまうので、ある意味では悲恋モノでもある。

フィクションとは何か―ごっこ遊びと芸術―
ケンダル・ウォルトン
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