着ているものが登場人物の性格を示す〜シアターコクーン『危険な関係』(ネタバレあり)

 シアターコクーンで『危険な関係』を見てきた。言わずと知れたラクロの古典小説をクリストファー・ハンプトンが戯曲化したものだ。

18世紀パリの社交界を舞台に、メルトゥイユ侯爵夫人(鈴木京香)とその盟友である女たらしヴァルモン子爵(玉木宏)が繰り広げる危険な恋の賭けを描いたものである。メルトゥイユ侯爵夫人は自分のかつての愛人が求婚している清純な娘セシル(青山美郷)を誘惑してくれとヴァルモンに頼むが、ヴァルモンは貞淑で有名なトゥルヴェル夫人(野々すみ花)を狙っている。メルトゥイユ侯爵夫人は、トゥルヴェル夫人を落とせば自分との夢の一夜を提供するという条件でヴァルモンと賭けをするが…

 名前はそのままなのだがかなりモダナイズした演出だ。セットは和洋折衷住宅で、ニセ畳みたいな床があり、左奥には大きな襖スタイルの引き戸があってここから登場人物が入退場できる。右手には窓と庭があるが、これは終盤はなくなる。全体的に親密感というか内密感が漂うセットだ。衣装も現代風だがちょっと凝っており、ヴァルモンは赤と黒の光沢がキラキラする上着を着ていて物理的にも一番光っているあたりが面白い。華麗なメルトゥイユ侯爵夫人のドレスとトゥルヴェル夫人のシンプルだが洗練されたドレスの対比も良い。メルトゥイユ侯爵夫人はいろいろなリボンなどが入り組んだ複雑なドレスを好んで着ていて、彼女の複雑な策謀と知性を象徴していると思うのだが、一方でトゥルヴェル夫人が最初に着ていたドレスなどは肌色と茶色の組み合わせ方がうまくて(首回りに肌色を使うのは難しく、前に見た『幽霊』のアルヴィング夫人とかはうまくいってなかったと思うのだが)、露出が少ない一方で内に情熱を秘めたキャラクターがよく出ていると思った。

 もともとロイヤル・シェイクスピア・シアターで働いていたリチャード・トワイマンが演出しており、全体的に非常にイギリスっぽい演出だ。やたらヴァルモンが脱ぐし(イギリスだったら全裸になっててもおかしくないかもしれないが)、性描写もわりと露骨なのだが、一方でただの会話にもなんとなく性的な緊張感が漂っているところが多く、鈴木京香玉木宏の個性をうまく生かしたセクシーな芝居になっている。笑うところもけっこうあり、第二部が始まるところで暗闇でヴァルモンのあえぎ声が聞こえる→照明がつくとランニングマシンで運動してるだけだった、という肩すかしなどはかなり面白おかしい。

 メルトゥイユ侯爵夫人は鈴木京香にぴったりの役どころだと思うのだが、人の心を傷つけて楽しむ単なる冷たい策謀家というよりはもうちょっと情熱的で複雑だ。男社会で女の武器を使って生き延びようとしてきた孤独な女が結局、自らの愛を見失って策謀家になってしまったというようなちょっと悲哀感のあるメルトゥイユ侯爵夫人である。野々すみ花の常に自分の愛に正直で純粋なトゥルヴェル夫人と良い対象になっている。玉木宏のヴァルモンはえらいセクシーで説得力があり(別に脱がなくても色っぽい)、ラテン語の話をするだけでとんでもないエロ発言になるあたりは笑ってしまった。