世界の終わりで愛を叫ぶ〜『散歩する侵略者』(ネタバレあり)

 黒沢清監督『散歩する侵略者』を見てきた。イキウメの舞台を映画化したSFである。舞台のほうは未見だ。

 宇宙人の侵略を描いたものなのだが、この宇宙人はまず偵察隊を別の星に送り込んで住人の体を乗っ取り、住人たちから「概念」を奪い、ある程度地元の情報を理解した後で侵略をするという方針をとっているらしい。「家族」とか「所有」とかの概念を奪うわけだが、これを奪われたそれぞれの個人はその概念を失ってしまうので、たくさん奪われると意識障害のような病状を呈してしまう。宇宙人は2人の子ども(「天野」と「立花あきら」)と成人男性1名(「加瀬真治」)の体を乗っ取るのだが、天野と立花あきらはすぐに出会うものの、加瀬真治(松田龍平)のほうはなかなか他の宇宙人と出会えず、夫が急病になったと思い込んでいる妻の加瀬鳴海(長澤まさみ)としばらく一緒に暮らすことにする。

 思ったよりもかなりロマンティックな展開で、真治が最後に愛を盗もうとしてからの展開は怒濤の「世界の終わりで愛を叫ぶ」話だ。主演のキャストはもちろん脇役の配役がけっこう面白く、鳴海の妹である明日美(前田敦子)とか、最後にいきなり医者として出てくる小泉今日子とか、妙に豪華だ。ちなみに東出昌大の牧師は個人的にヒットだったのだが、ああいう表情のない顔はこういう映画にピッタリだと思う。

 話はまあまあ面白かったのだが、ただ撮影については妙なところで手持ち撮影が行われたりしてあまり好きになれないところもあった。あと、ベクデル・テストはパスしない。あきらが他の女性と話して概念を盗むところがあってもいいと思うのだが…あと、あきらはいったい誰からあんなにいっぱい概念を盗んだんだろうと思った。人を殺してからつかまるまでそんなに時間はたってないと思うし、血まみれの姿ではなかなか他人に近づいて概念を盗めないと思うのだが…