シャープな美術と女性同士の友情が見どころ〜NTライヴ『お気に召すまま』

 NTライヴ『お気に召すまま』を見てきた。演出は『宝島』と同じポリー・フィンドリーだ。

 とにかく美術が非常に野心的で、宮廷は新公爵にこき使われている人々があくせく働く現代のオフィスだ。このオフィスは色鮮やかで盆栽みたいな植木が飾られているのだが、あんまり働きやすそうな雰囲気ではない。ロザリンドとシーリアが宮廷を出てアーデンの森に行くと、オフィスのイスや机がつり上げられて森となる。しかもそこに実際に人が座って効果音をその場で出したりするのだが、これは映像ではあまり効果がよくわからないのが残念だった。オーランドーが恋文を貼り付ける木々もこういうつり下げられたオフィス家具である。ヒツジの役は役者たち(ロザリンド役のロザリー・クレイグも!)が白いセーターを着て真似するようになっている。この美術はかなり好き嫌いが分かれそうだが、私はシャープな印象で良いのではないかと思った。

 ロザリンド(ロザリー・クレイグ)はたいへん元気で情熱的な性格だ。レスリングの場面はオフィスの息抜き行事みたいな演出になっているのだが、女性の姿の時からロザリンドがレスリングの芝居に夢中になって叫んだりするあたり、このあたりはけっこうリアルでとても良かった。男性の姿になってからのロザリンドは本当に生意気な青年みたいで水を得た魚のように生き生きしており、最後に女の姿に戻った時のほうが違和感あるくらいだ。シーリア(パッツィ・フェラン、『宝島』の主演)はおどけたユーモアのある非常に若々しい人物造形で、とてもロザリンドに忠実だ。ロザリンドが恋に夢中なせいでむくれているが自分も恋に落ちてしまうという過程をコミカルに見せていて、これも良かった。この2人の息は実にピッタリあっていて、女性同士の細やかな友情が楽しく、カラっとした雰囲気で描かれている。

 台本のほうはかなりカットしたり組み替えたりしており、とくに第二部はすごいスピードで話が展開する。例のタッチストンの侮辱に関する台詞なども全部カットされている…のだが、結末部分はちょっとスピードを優先するあまり細かいつじつまがあってないようにも思った。例えばシーリアはおじである公爵にバレないよう、最初は村娘の姿で出てきて、ロザリンドと一緒に着替えて最後に貴族の娘の花嫁姿で出てくるというほうがいいと思うのだが、この演出ではシーリアが最初から花嫁衣装だ。着替えの時間は短縮できるかもしれないが、これはあんまり良くないと思った。羊飼いのコリンが結婚を祝う台詞を担当し、全体をのどかで神々しい雰囲気で締めてくれるのは良い。