生きるための音楽〜『ソニータ』(ネタバレあり)

 『ソニータ』を見てきた。ロクサレ・ガエム・マガミ監督によるドキュメンタリーで、イランに住むアフガニスタン難民の少女で、ラッパーを目指すソニータを撮った記録である。

 ソニータは苦しい状況の中でもラッパーになる夢に向かって努力している。ところがアフガニスタンから母親がやって来て、16歳のソニータを9000ドルで見知らぬ男に嫁がせようとする。強制結婚の危機に直面したソニータを見て、土壇場でとうとう監督が介入、母親にお金を払ってソニータがしばらく結婚しなくていいようにしてもらう。ソニータは強制結婚に関するラップのビデオを作り、それが話題になるが、イランでは女性がレコーディングするのは禁止で、今まで世話になっていた福祉センターから面倒をみてもらうことができなくなってしまう。そんなソニータに、アメリカの音楽学校から声がかかり…

 とにかくドラマティックかつつらい話だ。映画になっているくらいだからとにかくなんとかなるんだろうと思って見ていた…ものの、ソニータが母親にアフガニスタンへと連れ去られそうになるところでは本気で心配になった。ここで監督が介入してしまうあたりはあまりドキュメンタリー映画らしくないのだが、この状況ならば当たり前だし、人間としての良心を優先して、それを全部記録した監督は立派だと思う。
 ソニータのラップは超カッコ良く、今でも強制結婚などの抑圧に苦しんでいる若い女性たちの心をありありと伝えるリアルなものだ。ソニータの歌を聴いていると、音楽というのは本当に生きるためのものなんだということがひしひしと伝わってくる。そんな才能あふれるソニータであるので、ビデオと楽曲が驚くほどの成功をおさめ、途中からはまるでシンデレラの物語みたいな展開になる。アメリカのワサッチアカデミーが声をかけてくるあたりでは、英語もほとんどできない子どもをドンと預かって教育しようということができる度量は凄いと思った。

 ソニータは自らの有り余る才能と知性で悲惨な運命を逃れ、自分の人生を生きることができるようになったわけだが、ほとんどの少女はソニータほど恵まれていないことを考えると暗い気持ちにもなる。ソニータは芸術家及び社会運動家として強制結婚に対する批判を行っており、アフガニスタンなどの女性たちにとても人気があるらしい。