怪獣SFコメディと見せかけて、飲酒問題とDVを扱う人間ドラマ〜『シンクロナイズドモンスター』(ネタバレ)

 ナチョ・ビガロンド監督『シンクロナイズドモンスター』を見てきた。

 失業し、酒に溺れて失敗ばかりしているグロリア(アン・ハサウェイ)は恋人のティム(ダン・スティーヴンズ)に家から追い出され、空き家になっていた田舎の実家に一時的に引っ越すことにする。幼馴染みだったオスカー(ジェイソン・サダイキス)のバーでバイトをすることにするが、その頃韓国のソウルでは突如怪獣が現れ街を破壊。グロリアはこのニュースに夢中になるが、やがてどうやら怪獣の動きが自分の動きとシンクロしているらしいことに気付いて…

 この作品、形としては怪獣SFで、さらにオフビートなユーモアもいっぱい詰め込まれているのだが、途中からアルコール依存症デートDVをテーマにする怒濤の人間ドラマになる。ここからネタバレだが、実は怪獣というのはグロリアが抱えている飲酒や人間関係の問題を象徴していて、さらにオスカーとシンクロしているロボットは自身の飲酒問題と虐待的な性格を象徴している。オスカーが自分とロボットがシンクロしていることを利用し、自分と一緒にいないとソウルを破壊すると脅して昔から憧れていたグロリアを操ろうとするというビックリするような展開になり、最後はグロリアが責任を感じて自分の飲酒問題と向き合い、オスカーと対決することで問題を解決しようとするという内容だ。

 普通の人間ドラマにすると地味すぎて暗くなりそうな話を、こんなに奇想天外な発想とユーモアと、またまた美人なのだがなんかマンガか宇宙人みたいな雰囲気のアン・ハサウェイの顔芸を使って実現したアイディアは素晴らしいと思う。最初っからとにかくダメ女なのだがなんか憎めないところがあるグロリアが、どんどん虐待的になっていくオスカーだけではなく、善意に満ちてはいるのだがあまりグロリアと対等に向き合ってくれないティムからもちゃんと自立して自分の作りだした怪獣に向き合おうとする過程はけっこう見応えがある。あんまりそういう人向けのマーケティングはやってないのかもしれないが、デートDVの問題とかに関心がある人には是非おすすめしたい。

 しかしながらまあ設定とかにいろいろツッコミどころがあるのはしょうがないし、あとベクデル・テストはパスしない(お姉さんとの電話はグロリアの声しか聞こえないし、最後にグロリアと話すバーの店員は名前がない)。グロリアが女友だちから支援を受けられるとかいう設定があればもっと良くなったと思う。あと、一番残念なのは韓国の扱い方だ。おそらく全く予算がなかったからだろうが、怪獣によるソウル破壊の撮り方がちょっとちゃちで、しかも毎日同じ時間帯に怪獣やロボットが出没するという設定なのに、時間帯による交通規制もやってないのはおかしい(そういう設定を撮るための大量の警官役とかを準備する金がなかったのかもしれない)。予算不足をアイディアで解決しなかったせいで、ソウル市民がなんかすごいバカのように見えかねないので、このへんはもっと工夫すべきだったと思う。