大がかりな仕込み、徹底的な笑劇〜NTライヴ『一人の男と二人の主人』(ネタバレあり)

 NTライヴで『一人の男と二人の主人』を見てきた。ゴルドーニの18世紀の戯曲をリチャード・ビーンが60年代のブライトンを舞台に翻案したもので、演出はニコラス・ハイトナーがつとめている。主演はジェームズ・コーデンである。

 主人公のフランシス(ジェームズ・コーデン)はちょっとばかりおばかちゃんなところはあるものの、陽気で食いしん坊な楽しいおどけ者である。フランシスはひょんなことからギャングのロスコーのアシスタント(用心棒兼世話係といったところ)をつとめることになるが、ひょんなことから上流階級出身のわけあり男スタンリー(オリヴァー・クリス)にも雇われることになる。実はロスコーは既に死亡しており、フランシスが主人だと思っているギャングは身を隠すため変装しているロスコーの双子の妹レイチェル(ジマイマ・ルーパー)だった。さらにスタンリーはロスコーを殺して逃げて来たレイチェルの恋人で、お互いを探してブライトンに来ていたのであった。フランシスが2人の人物に仕えていることがバレないよう苦心してウソをついたせいで、スタンリーとレイチェルは窮地に陥ってしまう。さらにフランシスは地元のギャングのところで会計士をしている色っぽくて機転の利くドリー(スージー・トーズ)に一目惚れしていろいろカッコつけようとしたせいで、さらに厄介なことに…

 典型的な笑劇で、感動とかそういうものは一切とっぱらってめちゃくちゃな笑いを楽しむ作品である。フランシスはコメディア・デッラルテの道化そのまんまで、食い物に目がなく、おばかちゃんかと思えば食べものや保身のためのウソ、女性を口説くコツについては妙に知恵が回るところもあったりする。そんなわけで失敗ばかりしているにもかかわらず、この芝居で一番賢く、フェミニストでセクシーなドリーとラブラブになるというハッピーエンドを迎える。コメディア・デッラルテだとコーデンがアルレッキーノ、トーズがコロンビーナにあたる役柄だろうと思うのだが、この2人はかなり息が合っていて良かった。登場人物もけっこうおバカばっかりで、ブライトンのギャングであるチャーリーとその娘ポーリーン、その恋人アランは全員、それぞれ個性的に抜けてるのでいろいろ笑わせてくれる。スタンリーも上流階級らしい勘違いばかりしているしょうもないアホなのだが、比較的まともそうなヒロイン、レイチェルの心を得て殺人の罪までチャラにしてしまうという凄い終わり方になる。道徳も筋道もあったものではないが、こういう素っ頓狂な展開も笑劇の面白さのひとつである。

 全体的に笑いのツボを抑えた演出で、とにかく面白おかしい。60年代風の作り込んだセットや、スキッフル風(ビートルズももともとはスキッフルをやってた)の楽器を取り入れたまさに60年代という感じのバンドが幕間に演奏をする作りなど、目にも耳にも楽しい作品だ。さらに観客の「仕込み」、つまり観客にランダムに参加してもらうように見せかけて客席に役者を配置し、大がかりなことをやるという展開が複数あり、これがけっこううまく効いている(普通の観客参加かと思って見ていたら、どんどんエスカレートしていって終盤で仕込みとわかるという展開である)。