いいところはたくさんあるが、疑問点も〜サインアートプロジェクト.アジアン『夏の夜の夢』

 あうるすぽっとでサインアートプロジェクト.アジアン『夏の夜の夢』を見てきた。

 二階建てのセットを使い、歌やダンスもある華やかな上演で、手話を組み込んでいる。多言語で上演を行うと何かちょっと無理している感じがすることがあるのだが、このプロダクションは長年手話で芝居をやっているというだけあって多言語使用がスムーズで、字幕、音声日本語、手話をうまく組み合わせている。赤い衣装を着込んだパックが手話役者と音声日本語役者の2人に分かれているのはいかにも妖精らしい変幻自在な感じがするし、劇中劇が基本的に手話劇で、クィンスが台詞を音で言うという構成も大変良かった。ライサンダー役が女性なのも、既に今年1回別のプロダクションで見たことあるタイプの配役だが悪くはない。

 ただ、こういういいところがたくさんある一方でそれを生かし切れていないと思うところがけっこうあった。まず、以前の青年団リンクRoMTの公演でも思ったのだが、ライサンダーを女にするなら衣装についてもっと気を遣ったほうがいいと思う。できるだけディミートリアスとよく似た服装にしないと、見た目で取り違えのリアリティが減ってしまう。あと、タイテーニアが目覚めるところの演出は全くいただけない。眠るタイテーニアの前で妻への愛情を吐露するオーベロンに対して、パックがまた恋の三色スミレを使ってタイテーニアに魔法をかけ、目覚めたところでオーベロンを見るようにし、惚れてもらいましょう…と言ってそのままそういう解決になるのだが、これだと嫉妬したオーベロンがタイテーニアを騙くらかしてまた自分を好きになるよう仕向けたみたいになるので、全然ハッピーエンドらしくならない…というかむしろ虐待的な関係に見える。

 劇中劇にもいくつか不満がある。まず、ボトムがピラマスではなく壁役なのだが、そうするとボトムが夢から目覚めた時に言う共感覚的な台詞と、ピラマスが劇中劇で言う「声が見えるぞ」の台詞がつながらなくなるので良くない。また、それ以外の劇中劇の出来についてはかなり良かったのに、途中でうやむやになって終わってしまうあたりは大変残念だった。もっとライオンが暴れたり、ピラマスとシスビーが長たらしく死ぬところを見て笑いたかった。