『カサブランカ』もこうやって作られたのだろうか〜『人生はシネマティック!』(ネタバレあり)

 『人生はシネマティック!』を見てきた。

 舞台は第二次世界大戦中のロンドン。新米脚本家として情報省(思いっきりわが母校であるロンドン大学セネットハウス図書館の建物が映っていた…戦時中は情報省が入っていた)によるプロパガンダ映画製作のために雇われたカトリン(ジェマ・アータートン)は、ダンケルクの救出作戦に船を出した双子の姉妹に関するニュースを得て、この話にもとづく映画を作るため取材を行う。ところがこれは実は誤報で、姉妹はダンケルクにたどり着けず帰ってきたところを記者に間違えられただけだった。困ったカトリンだが、戦争で疲弊したイギリスの女性たちを励ましたいという思いで、思いっきり脚色した映画の企画をブチあげることにする。紆余曲折の果てに撮影が始まるが…

 ヒロインのカトリンを演じるジェマ・アータートンはすごく魅力的だし、またかつてのスターで今では若干スランプ気味の俳優ヒリアードを演じるビル・ナイがとにかく芸達者だ。この作品ではカトリンが脚本家としてさまざまな苦難を乗り越えつつ一人前になっていく一方、ヒリアードも役者としてもう若いヒーロー役はできないことを悟って一段芸に深みを加えるというような展開になっており、この2人が芸術家として成長する様子を描いた作品だと言っていいと思う。カトリンとチームを組むバックリーを演じるサム・クラフリンとか、最初は口うるさいがだんだんけっこうセンスのある優しい人物だとわかるレズビアンの情報省職員ムーアを演じるレイチェル・スターリングとかもとてもいい味を出している。カトリンがムーアに連れられて仕事を説明してもらう場面でベクデル・テストはクリアする。

 この映画の一番の面白さは、映画というのはつらい人生に希望をもたらしてくれるということを生き生きと描いているところにあると思う。カトリンたちが作っているのはプロパガンダ映画なのだが、制作している『ナンシー号の奇跡』はけっこう面白そうだ。これは脚本家であるカトリンが、戦争で苦しんでいる庶民の女性たちの経験を生かし、彼女たちを励ますような映画を作りたいと真剣に考えて作品に取り組んでいるからである。他の製作陣も、暗くなっているイギリスの観客を元気づけたいと思って本気で映画に取り組んでいる。この間ちょうどBBCサイトで『カサブランカ』の映画評を読んだのだが、『カサブランカ』はプロパガンダ映画である一方、今でも映画史上の名作として人気がある。このレビューによると、それはこの作品のスタッフの多くが移民やユダヤ系で、自分たちの経験や思いをたっぷりこの映画に詰め込んだからだ。全体としては夢みたいな冒険とロマンスに昇華されているが、『カサブランカ』が今でも面白い映画なのはこの切実なリアリティにある。ここでカトリンたちが作っている『ナンシー号の奇跡』もたぶんそういう映画なのだ。最後までオチがうまく決まらず大混乱になるあたりまで『カサブランカ』に似てる。最後、希望を失いかけたカトリンが自分が作った映画に救われるという結末は、映画の力を強く示すものだと思う。