若者と老人〜『アテネのタイモン』(ネタバレあり)

 彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾『アテネのタイモン』を見てきた。吉田鋼太郎が演出・主演をつとめ、蜷川なき後最初のシリーズ上演である。先月、これに関する事前勉強会で講演したので、けっこうテクストなど読み直して見に行った。あまりモダナイズはしないストレートな上演だが、ゴージャスで非常に正攻法な感じで面白かった。

 セットや美術はけっこう蜷川を思わせるところもあるもので、前半は大がかりなタイモンの屋敷の入り口、後半は森だ。ところどころ見受けられるショッキングな演出も少々蜷川リスペクトで、借金の赤い書類が飛び散るところや、タイモン(吉田鋼太郎)が突然、泥棒を殺害するところなどは蜷川っぽいように思った。屋敷が燃える演出などもけっこう豪華な特殊効果を使っていて見映えがする。 
 この上演の一番の勝因は、アペマンタス(藤原竜也)とアルシバイアディーズ(柿澤勇人)が若いことだと思う。この2人は非常に性格が違っているが、どちらもアテネの腐敗ぶりに不満を抱いている若者だ。藤原アペマンタスはボロボロの毛皮に身を包んでおり、哲学者というよりはパンク詩人みたいな感じ(そのままハムレットでも通りそう)である。アルシバイアディーズは清廉だがカっとなりやすい軍人だ。変人扱いのアペマンタスと、アテネでは軍人として高い評価を受けているアルシバイアディーズは正反対とも言える性格だが、タイモンのことを真面目に考えていたと言えるのは、執事フレイヴィアス(横田栄司)などの召使いたち以外はこの2人の若者だけで、タイモンはなんだかんだでこの性格の違う2人の若者からある種の親身な敬意を勝ち得ていた。このプロダクションのタイモンは、才能ある若者を引き立てるのが好きな老人で、本人にもちょっと子どもっぽいところがある。タイモンが隠棲してからアペマンタスに「オレの格好を真似るな!」と言われるところや、子ども同士みたいにツバのとばしあいをするところは、タイモンには実はちょっと大人げないところがあることを示している。さらにタイモンが泥棒を殺してしまうところは、カっとなりやすいアルシバイアディーズとの共通点を暗示しているとも言える。そういうちょっと子どもっぽくて若者に慕われているタイモンが、アテネ既得権益にまみれた暮らしをする大人たちから真の意味では好かれていなかったというのは当たり前なのかもしれない。