近世イングランドの演劇ファンとファンフィクション〜Matteo A. Pangallo, Playwriting Playgoers in Shakespeare's Theater

 Matteo A. Pangallo, Playwriting Playgoers in Shakespeare's Theater (University of Pennsylvania Press, 2017)を読んだ。

Playwriting Playgoers in Shakespeare's Theater
Matteo A. Pangallo
Univ of Pennsylvania Pr
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 近世イングランド演劇の受容に関する研究で、プロの劇作家や、教養ある貴族階級の文人ではない、平民階級のアマチュア劇作家たちをとりあげたものである。芝居に通っていたファンが戯曲を書くことがあり、これは近世の「ファンフィクション」(p. 30)とも言えるようなものだ。一般のファンがどのように芝居を受容していたかの重要な手がかりになる。
 刊行された戯曲から、誰も知らない手稿まで幅広い資料を調査しており、韻文の扱いや上演されるにあたって行われた改訂、ト書きなど(アマチュア劇作家のト書きはプロのものより多く、観客の視点を反映している可能性が高いようだ)、細かい部分を丁寧に分析した研究で、大変参考になる。芝居好きが高じて自分でも戯曲を書くようになったファンの中には元泥棒(ジョン・クラヴェル)とか、なかなか面白い経歴の人もいる。また、この本を読んでシェイクスピア劇に出てくるハムレットやピーター・クィンスもアマチュア劇作家だったということに気付いた。クィンスはともかく、いきなり既存の戯曲に台詞を足したいとか言い出すハムレットはかなり迷惑なファンなのかもしれない。