歌って踊って、お父さんが誰かとかはどうでもいい~『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』(ネタバレあり)

 『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』を見てきた。『マンマ・ミーア!』の続編で、前編アバの音楽を使ったジュークボックスミュージカルである。全体的に前作よりかなりお金がかかっていて、船の場面など豪華なところが多い。

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 ビックリするのは、映画の開始時点で前作のヒロインのひとりだったドナ(メリル・ストリープ)が亡くなっていることだ。娘のソフィ(アマンダ・サイフリッド)が母の遺志をついてカロカイリ島のホテルのリニューアルオープンを目指している。夫のスカイ(ドミニク・クーパー)とはあんまりうまくいってない。このあたりのホテルのリニューアルオープンの話が現在視点で続く一方、若き日のドナ(リリー・ジェームズ)がいかにソフィの「3人の父」であるサム(ピアース・ブロスナン)、ハリー(コリン・ファース)、ビル(ステラン・スカルスガルド)と出会ったのかを描く。

 

 この、若き日のドナを演じるリリーが超可愛い。めちゃくちゃ魅力的で生き生きしており、行く先々で男たちがバタバタとドナに参ってしまうのも当然という感じだ。3人の彼氏はみんなドナに夢中で、サムとハリーはドナに恋心を抱いたまんま離れてるし、ビルは冒険家なのでまあ女と長続きするタイプじゃないわけだが、それでも1度はドナに未練があって戻ってきてる。とくにハリーはかなりかわいそうなフラれ方をしている。前作で実はゲイだとカムアウトしていたハリー(ヒュー・スキナー)はドナが初めて熱烈に恋をしてセックスした相手ということになるのだが、ドナはなんかあんまりしっくりこなかったのか(ハリーが実はあまり女が好きじゃないことにうすうす気付いたのかも)、無言でハリーのもとを去ってしまう。ショックを受けてドナを追っかけるがうまくいかないハリーは、けっこう気の毒だ。

 

 しかしながら、この恋多き女ドナを誰も男好きだとか非難することはないし、この映画に出てくる人はみんな父親がわからない子供をひとりで育て、友情を大切にし、ホテル経営までやっていたドナを大変立派な女性だと尊敬している。このあたりの、人をせせこましい性道徳とか家族規範とかで非難しないおおらかさが大変よい。最近読んだBritish Musical Theatre Since 1950に、『マンマ・ミーア!』のストーリーはメチャクチャに見えて「子供の父親は誰か?」という古典的な物語上の問いをぶっとばすポストモダンな話の作りをしているという分析を見かけてなるほどと思ったのだが、たしかに『マンマ・ミーア!』シリーズは一見、愛と家族の素晴らしさを称える保守的な話のようで、実は「血のつながりとかどーでもいいじゃん!家族になりたいヒトで家族になるのが幸せだよ」というメッセージを全身で発している。『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』でも、3人のお父さんは誰が父親か競争とかはせずにソフィを娘としてかわいがっていて、リラックスした親子関係を築いている。

 

 ベクデル・テストについては亡きドナの話をターニャやロージーがするところでパスする。あとシェールがソフィの疎遠になっていた祖母ルビー役で出てくるのだが、私は実はシェールが一番浮いてるように思った…というのも、この映画は基本、「歌が下手でも楽しくみんなで歌えばいいのがアバ」というコンセプトでできているのだが、シェールだけマジで本職の大歌手なので、ひとりだけ歌の解像度がおかしいみたいな感じがする。女性とゲイ男性に人気のある『マンマ・ミーア!』が、ファンベースがかなりかぶるゲイアイコンのシェールを起用しようというのはわかるのだが、とくに男性キャストに比べると歌がうますぎるなと思った。