戦士を放ってはおけない~『500ページの夢の束』(ネタバレあり)

 『500ページの夢の束』を見てきた。

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 主人公である自閉症若い女性ウェンディ(ダコタ・ファニング)は『スター・トレック』の大ファンで、脚本コンテストに応募すべく、とっておきの『スター・トレック』台本を仕上げていた…が、さまざまなトラブルで台本が期日前に発送できず、直接台本を持ってハリウッドに向かうことにする。初めての旅で、さまざまなトラブルが発生するが…

 

 ウェンディはグループホームに住んでいるのだが、職員であるスコッティ(トニ・コレット)の支援もあり、シナボン売店でバイトもしているし、趣味の活動もしっかりやっていて、かなり自立して生活している。そのバイトでためたお金で思い切ってハリウッドまで行こうとするわけだが、なんと一緒にホームの飼い犬であるピートがついてきてしまったせいでバスの中でトラブルが発生して降ろされ、その後泥棒にあうやら事故にあうやら、いろいろ大変なめにあってしまう。このあたりの過程が丁寧に描かれていて、そんなに凝った話ではないのだが好感が持てる。

 

 『スター・トレック』ネタが、イヤミのない感じでかなりふんだんに盛り込まれているところも良かった。スコッティはまったくSFに関心がないため、『スター・トレック』と『スター・ウォーズ』を混同して、息子のサム(リヴァー・アレクサンダー)に怒られたりする。終盤で警官のフランク(パットン・オズワルド)が、ウェンディを助けようと「戦士」同士としてクリンゴン語で話しかけるところはすごく面白い。また、なぜウェンディはこんなに『スター・トレック』に夢中なのかということで、感情を持て余し気味なスポックに対してウェンディがたぶん親近感を抱いているから…という理由が提示されているところもとても良かったと思う。

 

 いくつか台本に疑問なところはある。たとえば、終盤でウェンディを助けてくれる老人ホームのおばあちゃんがその後、出てこなくなってしまうところはちょっと尻切れトンボだと思う。あと、ウェンディがシナボンの店で販売を含んだバイトをしているところはけっこう大変そうだと思った…というか、ウェンディみたいな人がシナボンの店で働くなら、調理や皿洗い、清掃を仕事にしたほうがいいんじゃないかと思った(私は我ながらかなり社交性が低いと思うのだが、一度飲食店の接客バイトをやってあまりにつらくて全く続かなかったことがあった)。とくにウェンディみたいな可愛い子が接客していると、変な男の人にイヤなこと言われるかもしれないし…いやまあ、ウェンディは私より社交性があるってことなのかもしれないが…

 

 なお、この映画はベクデル・テストは完全にパスするというか、ほとんど女性同士の会話で、内容もウェンディの仕事とか生活のことばかりである。さらにこれ、逆ベクデルをパスしない。逆ベクデル・テストは、男性が二人以上出てきて、お互いに話して、女性以外のトピックについて話すところがあるか、というのを基準としているのだが、この映画ではそもそも二人以上の男性が女性がいないところで話す場面がないのである。逆ベクデルをパスしないのは『ゴーストバスターズ』のリブートとかだが、けっこう珍しい。