早く大人になりすぎたヒロイン~『マイ・プレシャス・リスト』(ネタバレあり)

 スーザン・ジョンソン監督『マイ・プレシャス・リスト』を見た。

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 主人公のキャリー・ピルビー(ベル・パウリー)はロンドン生まれ、ニューヨーク育ちの19歳の女性だ。14歳でハーバード大学に入り、18歳で卒業したといういわゆる神童で、とにかく読書家で博識である。ところが若くして大学に入ったせいで同年代の友達がおらず、現在では仕事も見つからず、セラピストと行きつけのお店以外はほとんど外出もしないような暮らしをしている。そんなキャリーにセラピストのペトロフ先生(ネイサン・レイン)が、年末までに治療の一環としてやることのリストを渡す。さらに離れて暮らす父のすすめで法律文書校正の仕事も始めることになり…

 

 これ、予告だとまるでダメな女の子が変身を目指すロマコメ…みたいな印象を受けるのだが、相当違う。ポイントはキャリーがまだ19歳かつギフテッドだということだ。これが27歳とかで自分で仕事もしているような女性たと、ペトロフ先生の「デートしろ」とか「友達を作れ」みたいなリストは余計なお世話…と思うところだが、なんてったってキャリーはまだ州によっては飲酒もできない、言ってみればほとんど子供に近い若者だ。しかも知的成長が急激だったせいで(フーコーの『知の考古学』を面白がって読んでいる!)、社会生活の面での精神的成長がそれに追いついていない。ふつうなら、大学卒業後はキャリアプランをある程度決めて働いたり大学院に行ったりする選択肢があるが、キャリーは自分のキャリアに関して重大な選択をするにはまだちょっと精神的に幼すぎる。これなら、ペトロフ先生が父親みたいにお節介を焼いてデートや友人作りをすすめるのもまあわかる。これはのっぴきならない事情で子供か大人かわからない状態に放り込まれてしまった少女の成長物語なのだ。

 

 しかも、ここからはネタバレなのだが、キャリーは大学時代にとんでもない英文学の教員ハドソン(コリン・オドナヒュー)と関係し、手痛い失恋をしていた。このハドソン、私が今まで見た映画に出てくる英文学教師の中では最低レベルに凶悪である。まず、学生に手を出す時点で教員としては職務倫理に反している(教員だろうが殺し屋だろうがプロはクライアントと寝ないほうがいいし、とくに教員の場合、依怙贔屓が厳禁だ)。ちなみにハドソンがキャリーに手を出したと知った時に、キャリーの父であるピルビーさん(ガブリエル・バーン)が淫行で訴えるとか言い出すのだが、ハーバードのあるマサチューセッツは同意年齢が16歳なので(ニューヨークとかカリフォルニアはもうちょっと高いので、コロンビア大学スタンフォード大学だったら違法だったかも)、ハドソンはギリギリ違法行為はしていなかったらしい…ものの、明らかにキャリーが若いのにつけこんでるし、バレたら停職や減給になってもおかしくない。さらにこのハドソン、顔だけは良いナルシスト男で、映画の中のフラッシュバックでほのめかされている、別れた原因がまあなんかとにかくひどいものらしい(なんとなく示唆されているだけなのだが、想像するだけでかなり気持ち悪い)。ちなみにこいつはモダニズム文学の研究者らしいのだが、まったく、意識の流れを使って女を口説くなボケと思う。まあしかしそんなわけで、キャリーはまだ十代半ばなのに大人の世界でろくでもない男に引っかかってしまい、そのせいでだいぶ彼女の社会性に悪影響が出ている。そんなところから社会となんとかつきあえるようになるために、リストをひとつひとつこなしていくのが必要だった。

 

 全体的にはいろいろツメの甘いところもあるし、『マイ・インターン』同様、ニューヨークなのに妙に白人ばっかり(しかも『マイ・プレシャス・リスト』は妙にアイルランド系ばっかり)なのはちょっと気になるのだが、わりと面白く見ることができた。キャリーとタラが仕事の話をするのでベクデル・テストはパスする…っていうか、逆ベクデルはパスしないかもしれない。