マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『華氏119』を見てきた。
マイケル・ムーアがドナルド・トランプはなぜ大統領に当選したのか、そしてトランプはどれほど危険なのかを分析し、それにどうやって抵抗すべきなのかを考えて訴えるという内容である。
前半はまるでホラー映画みたいだ。トランプ当選のショックをまるでサイコホラーみたいに撮っており、ドキュメンタリーとは思えないくらい気持ちが悪い。序盤で、クリントンを攻撃したメディアの男たちの中にはトランプ同様、セクハラで訴えられていた連中が多い…という話のところでは、ホールの"Violet"が流れるのだが、これはホールの最高の使い方だと思う(『リヴ・スルー・ジス』の時のホールはものすごい負のパワーを発していた)。
ムーアの批判はトランプ政権だけではなく、弱腰の民主党や、きちんとミシガン州フリントの水道水汚染問題に対処しなかったオバマ政権などにも鋭く向けられる。相変わらずいろいろなところに突撃取材するわけだが、抗議活動の取材でプロテストを受けた側の「武器を持ってるか?」「マイケル・ムーアがいる」という会話の音が入っているところがあり、まさにペンは剣よりも強しを象徴するような場面だと思った。武器より手強いマイケル・ムーアだ。ただ、相変わらずこういう鋭い批判や抵抗も、ユーモアに包んで表現されている。
後半は抵抗に焦点をあてたところが多く、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の生還者たちが始めた草の根銃規制運動や、各地で民主党の保守性に呆れて立ち上がった革新系活動家たちを取材している。銃規制運動についてはエマ・ゴンザレスのスピーチを初めとしていくつか強烈な政治的発言のフッテージが使われており、私は2回くらいボロ泣きした(最後のエマ・ゴンザレスのスピーチの時に傍目にわかるくらいボロ泣きしたので隣の人はたぶん不審に思ったかも。こんなに泣いたのはチャップリンの『独裁者』くらいだ)。とにかく今年一番泣ける映画である。