ギンギラギンにさりげないエレクトリックアンドロイドモーツァルト~日生劇場『コジ・ファン・トゥッテ』(ネタバレあり)

 日生劇場で菅尾友演出『コジ・ファン・トゥッテ』を見てきた。この作品については既に連載で記事も書いているくらいなのだが、びっくりするような演出だった。

 

 この作品の舞台は「ネオポリス」で(ナポリっぽい名前ではあるが、18世紀のナポリではない)、LEDなどが使われたちょっと近未来っぽいキラキラしたデザインのセットが使われている。そして主要登場人物であるグリエルモとフェルランドはアンドロイドなどを開発しているらしいギークな技術者2人で(プログラムによると「オタク男子二人」)、ドラベッラとフィオルディリージはこの2人が(おそらくそれぞれがフラれた美女をモデルに)開発したアンドロイドである。日本の美女アンドロイドらしくピンクや黄色のカラフルな髪の毛で、光る衣装を着ている。このギーク技術者2人はアルフォンソにけしかけられて美女2人の愛を試そうとし、「戦場」に行くと言って消える…のだが、このプロダクションでは、「戦場」への出陣がなんと宇宙に旅立つという設定で、スクリーンには宇宙遊泳をする2人が映り、女性2人はそれを見送る。そして男性2人はムキムキでドレッドヘア(だと思うのだが、なんとも形容しがたい髪型)の別人に変装して帰ってきて、女性2人を誘惑する。

 

 プログラムにも書かれているのだが、これはどっちかというとモーツァルトというよりは『エクスマキナ』とかの世界である。自分たちの被造物である美女2人を試そうとする奢りきった技術者2人と、デスピーナの助けもあってどんどん人間らしくなっていく(つまり、理性で制御できない激しい感情などを経験する)ドラベッラとフィオルディリージの対比がくっきり描かれる。グリエルモとフェルランドの変装後はちょっとアンドロイドっぽい姿になるのだが、この2人と被造物である2人、どっちが人間らしいと言えるのかもうよくわからなくなってくる。最後はアンドロイドですら自分たちの思いのままにならないことに気付いて失望した男たちがドラベッラとフィオルディリージにビニルシートをかけてしまおうとするのだが、女性2人が反逆し、グリエルモとフェルランドに銃をつきつける…のだが、撃たずに2人は去って行くというオチで、すっとするんだか怖いんだか…

 

 全体的にはとても面白かった。最初はオタクっぽい2人があまりにもステレオタイプなのでは…とも思ったのだが、モーツァルトの音楽に肉付けされているし、歌手2人(村上公太と岡昭宏)がとても上手なのであまり気にならなくなった。アンドロイド美女2人(髙橋絵理、杉山由紀)については、最初は自分たちを創った恋人たちがいなくなって泣くばかりの世間知らずな女性たちなのに、だんだん自分の気持ちに従って恋をしようとし始めるあたり、かなりの成長が描かれていると思う。ただ、上の記事にも書いたのだが、私は『コジ・ファン・トゥッテ』はこの姉妹2人が最初から自律性のある存在として描かれているのが魅力のひとつかもと思っているので、その点でもとのオペラとはけっこう違って見えると言えるかもしれない。しかしながらこれだけ改変して演出してもちゃんとモーツァルトとして見ることができたので、この作品というのはとてもフレキシブルな解釈ができるオペラなんだなと思った。こんな奇抜な演出を考えて、ある程度成功させたのは凄いと思う。