史実準拠にしたほうが盛り上がったのでは?~『メアリーの総て』

 『メアリーの総て』を見てきた。『フランケンシュタイン』の著者であるロマン主義の小説家、メアリ・シェリーの伝記映画である。

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 ウィリアム・ゴドウィンとメアリー・ウルストンクラフトの娘であるメアリー(エル・ファニング)は義理の母(ジョアン・フロガット)とそりがあわず、スコットランドバクスター家に預けられていた。そこで出会った新進気鋭の詩人パーシー・ビッシュ・シェリー(抱くラス・ブース)と恋に落ちるが、パーシーは既婚者で…

 

 エル・ファニングの演技はとても良いし、独特の静かな味わいのある作品なのだが(ベクデル・テストもメアリーとクレアの会話でパスする)、全体的に「これは要るのか?」という展開があったり、盛り上がりに欠けるところもわりとある。スコットランドに預けられるところは全部カットしても話がつながるんじゃないかと思った(わざわざ友達役でメイジー・ウィリアムズを出した意味があまりない)。一番疑問に思ったのは、メアリーがパーシーにひどい目にあわされ、幻滅しまくってほとんど1人で短期間に『フランケンシュタイン』を書き上げるという展開である。これは史実にあまりそっておらず、『フランケンシュタイン』は書き上げられるまでに数ヶ月かかっているし、どうやら夫のパーシーがおそらくはかなり早い段階から編集者・校正者の役割をつとめたらしく、パーシーがたくさんコメントを書いたり、編集したりした草稿も残っている(パーシーが新人作家を発掘した編集者ばりに一生懸命『フランケンシュタイン』を手伝ったため、いまだにパーシーが真の著者だという陰謀論を唱える人までいるくらいだ)。パーシーがいろいろ無責任な人でメアリーが困ることがたくさんあったというのは事実なのだが、この『フランケンシュタイン』創作のくだりは、いつも迷惑ばっかりかけてる妻に対して罪滅ぼしのため夫が献身的に妻の創作を助ける、みたいな解釈で史実を取り入れた展開にしたほうが、創作を通してカップルが愛の危機を乗り越えるみたいな感じになって良かったんじゃないかと思う(実際にパーシーがどういう動機で妻を手伝ったのかはわからないが、こっちのほうがロマンティックな話にまとめやすい)。この映画だと、メアリーがひとりで書き上げてパーシーが謝っておしまいみたいになってしまうので、イマイチ盛り上がりに欠ける。