西川貴教シェイクスピアが良かった~『サムシング・ロッテン』

 『サムシング・ロッテン』を見てきた。ジョン・オファレルとケイリー・カークパトリック脚本、ケイリーとウェイン・カークパトリックが作詞作曲で2015年に初演されたシェイクスピアネタのミュージカルである。日本版の演出は福田雄一だった。

 

 舞台はエリザベス朝のロンドン。ニック(中川晃教)は弟のナイジェル(平方元基)と芝居を作っているが、なかなかいい作品が思いつかず、資金繰りも苦しい。困ったニックは占い師ノストラダムス(橋本さとし)に頼んで、売れっ子のシェイクスピア(西川貴教)の未来のヒット作を占ってもらい、そこからアイディアを盗もうとするが…

 

 『恋に落ちたシェイクスピア』などに比べるとわりと時代考証はいい加減である。資金がないのでどうしてもパトロンが必要だという話になるのだが、この頃の劇団にパトロネッジが必要なのは資金じゃなく身分保証(貴族に劇団の名目上のパトロンになってもらわないと浮浪者扱いになりかねない)のためだし、ミュージカルがすごく革新的な発明のように言われているが、この頃の芝居に歌や踊りが入るのはフツーだ。とはいえ、この作品のポイントはそういうところじゃなく、全体的にシェイクスピアの時代を描きつつ、実はネタにしているのがブロードウェイミュージカルだというのが重要だ。ニックが占い師のノストラダムス(有名なほうじゃなく、イングランドに住んでいる親戚らしい)の予言を使って書こうとする作品は『ハムレット』にいろんなミュージカルをくっつけた珍妙なもので、おそらく『プロデューサーズ』の『ヒトラーの春』くらいはひどそうな内容だ。ギャグもけっこう「近所でブロードウェイミュージカルが上演されている」ことを前提にしたメタな楽屋オチが多い。

 

 演出はちょっとそのへんをうまく扱えていないところもある…というか、ブロードウェイネタのジョークで固めたところにいきなりハズキルーペネタとかを入れるのは場面の統一性がなくなるのであまりよろしくないのではと思った。また、私の見た回では、どうも1回、照明のタイミングをミスったのではと思われるところがあった(変なタイミングで1回、赤い舞台上のライトがついていた)。

 

 一番良いと思ったのは西川貴教演じるシェイクスピアだ。出てくる時からいかにもスター然としているし、チャラくて才能はありそうなのだが常に他人からアイディアを盗んだり、ライバルを蹴落としたりしようと虎視眈々としている役柄がとても似合っていたと思う。変装して少年俳優のフリをし、ニックとナイジェルのボトム兄弟の劇団の様子を探ろうとするあたりもなかなか芸達者だった。