メイカーDIY野郎とワンオペシングルマザーの物語、ファレルの美声ナレーションつき~『グリンチ』(ネタバレあり)

 『グリンチ』を見てきた。有名な絵本の映画化で、既に一度ジム・キャリー主演で実写映画化されているが、こちらはミニオンズシリーズを作っているイルミネーションによるアニメである。

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 お話はファレル・ウィリアムズのナレーションにのって展開する。緑のフワフワしたクリーチャーであるグリンチ(ベネディクト・カンバーバッチ)は人間嫌いで、山奥に犬のマックスとふたりきりで住んでいる。ところが近所の街であるフーの村では盛大にクリスマスを祝う伝統があり、今年も皆、準備に余念がない。楽しそうな村人たちを見て気分が悪くなったグリンチは、クリスマスの飾り付けやプレゼントを全部盗んでしまおうと計画をたてるが…

 

 あんまり期待していなかったのだが、予想以上に面白かった。グリンチは手先が器用で発明の才能があるのだが、孤児でいじめられて育ったのでひねくれて山奥でひとり暮らしをするようになったという設定である。グリンチはかなり優秀なメイカDIY野郎でピタゴラ装置を作って家事を半自動化しており、家の中にちょっとした発明基地を持っている。この基地がさすがミニオンズシリーズを作っているイルミネーションらしく、マンガっぽい派手なデフォルメと細かいこだわりがちょうどいいバランスの楽しいヴィジュアルだ。

 

 村人メインキャラは3人の幼い子どもを抱えたシングルマザーのドナ(ラシダ・ジョーンズ)とその長女シンディ・ルー(キャメロン・シーリー)である。ドナは夜勤などで稼ぎながら悪ガキの幼い双子とシンディ・ルーを育てているのだが、疲れ切っている(子どもたちのお父さんが亡くなったのか、離婚したのか、それとも何かの事情でもとからいないのかはよくわからない)。お姉ちゃんのシンディ・ルーは、お母さんを助けてほしいという重要なお願いを直接サンタに頼むため、サンタをつかまえる作戦を立てる…というものなのだが、ドナとシンディ・ルーの会話でベクデル・テストはパスするし、ドナのワンオペ育児の描き方はけっこうリアルである。そして娘のシンディ・ルーはお母さんがかまってくれないからむくれるとかいうわけではなく、自分なりに解決方法を考えて、サンタにお願いするのがいいんじゃないかと、子どもらしいながらもなかなか気の利いた発想で対処しようとする。そこで、実はグリンチの家事を半自動化するような発明が結果的にドナの暮らしに役立ってしまう…というのがミソだ。

 

 ただ、人付き合いの悪い人はコミュニティで包摂しないと…というのは私はあんまり好きな展開ではなく(アナ雪の時もそう思った)、だからあまり期待していなかったのだが、しかしながらフワッフワのグリンチの毛や雪など見るだけで楽しいテクスチャの表現、おもちゃ箱みたいなヴィジュアル、イルミネーションらしいフザけたユーモア、さらにファレルの美声ナレーションに包んで心あたたまる展開を見せられてしまうと、けっこう面白いと思ってしまうところがある。しかし、たぶんこういう話がアメリカで受けるというのは、おそらくアメリカ人がものすごくコミュニティを欲していて、かつホリデーシーズンにこだわりがあるってことなのかな…と思った。