相変わらず音楽の使い方がうまい〜『キングスマン: ゴールデン・サークル』(ネタバレあり)

 『キングスマン: ゴールデン・サークル』を見てきた。

 話にはいろいろアラもあるのだが、とにかく前作に引き続き音楽の使い方がうまい。エルトン・ジョンがけっこうちゃんと出てきて歌うという豪華なキャストはもちろん、他にもいろいろ工夫がある。
 前作ではハリーが殺されるところでレーナード・スキナードの「フリー・バード」が大変うまく使われていたのだが、今回使用されているのはジョン・デンヴァーの「カントリー・ローズ」だ。『ローガン・ラッキー』でも使用されていてその時も書いたのだが、この曲はレーナード・スキナードみたいな南部連合ロック的なものとは一線を画す、アメリカの良心みたいなものを表すルーツ・ロックである。このアメリカの良心のような曲を、イギリス男の典型みたいなマーリン(マーク・ストロング)が自分で歌いながら壮絶な死を遂げるというのは(ここでマーリンを死なせる展開はちょっと強引にすぎると思うのだが)、前作のハリーの死を裏返したような展開になっている。

 さらに冒頭の車のアクションでは、予告ではザ・フー「マイ・ジェネレーション」をリミックスしたものが使われていたのだが、本編ではプリンス「レッツ・ゴー・クレイジー」が大音量でかかるようになっている。最後まで観ると、なぜ最初にプリンスがかかったかわかるようになっており、ここもにくい。イギリスでは王女と結婚してもプリンスの称号はふつうもらえないのだが、スウェーデンでは最近は王女と結婚した場合プリンスの称号が与えられることがあるらしいので、エグジーは名実ともにプリンスとなったということだ。このあたりの音楽を絡めた展開は、以前wezzyの連載「男性はお姫様がお好き?〜映画に見る男性のプリンセス願望」で書いた、エグジーのお姫様好きが行くところまで行った感じでちょっと面白かった。

 なお、前作『キングスマン』はベクデル・テストをパスしたが、今作は女性同士の会話がほとんどないのでパスしない。ジュリアン・ムーア演じるドラッグカルテルのボス、ポピーは明らかにマーサ・スチュワート(カリスマ主婦だがインサイダー取引で一時期刑務所に入ってた)に基づいていると思うのだが、そのへんの描き方はいいと思った。ポピーはサイコパスの企業家だが、アメリカ政府に対して訴えてる内容は実はそんなに間違ってないかもしれないというところもひねりがある。この映画のドラッグの描き方はちょっと複雑で、ドラッグの消費者のほうは悪意が無い人々なのだが企業家がそういう市民を搾取しており、さらにドラッグを糾弾する大統領などのほうが倫理的に問題があるというふうになっている。