いつものマクドナー、ただし穏やかめ〜『スリー・ビルボード』(ネタバレあり)

 マーティン・マクドナー監督の最新作『スリー・ビルボード』を見てきた。

 舞台はミズーリ州エビングである。娘のアンジェラを殺した犯人がなかなかつかまらないことに業を煮やしたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、警察とウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)を批判する広告を三枚たてる。この広告をきっかけに小さな町にいろいろな騒動が…

 いわゆる「いつものマクドナー」的要素は大変多い。アホな奴が何かしたせいで余計事態が悪くなるというのはマクドナーっぽいし、若い女性をめぐる殺人と犯人探しというのは『ハングメン』、突然物凄く暴力的なことが起こるのは『ウィー・トーマス』、善良な町の名士が自殺してしまうというのは『ロンサム・ウェスト』、小人症の人が大きな役割を果たすのは『ヒットマンズ・レクイエム』、ちょっとだらーっとしてるけどイイ人の警察署長が出てくるのは『ザ・ガード 西部の相棒』(これは製作だけだが)、人が燃えるのは『セブン・サイコパス』だ。ただし、『セブン・サイコパス』もちょっとそう思ったのだが、『スリー・ビルボード』は相当、抑えた穏やかな終わり方にしてあると思う。舞台のマクドナーはもっと容赦なくダークで、たぶん舞台でこの話をやるとしたらもう10分長く(この後ぼかした形でネタバレを書くので注意)、あの2人が結局、偶然みたいな形で非常に暴力的に奴を殺してしまい、お客さんは奴の反応からこいつはただの猟奇殺人オタクのアホで実は何もしてないんじゃないか…と思ったところでミルドレッドに電話がかかってきて「真犯人がつかまりました」という知らせがくる、くらいはエグいオチになるのではと思う。アメリカのお客さんがビックリしないようにするためか、登場人物がけっこうみんな精神的に成長し、ずいぶんと優しい、いいオチになっていた。

 おそらく、オチがけっこう穏やかなのは、フランシス・マクドーマンドの個性に合わせるためというのもあると思う。ミルドレッドを演じるマクドーマンドは本当に素晴らしく、後悔を抱えたせいで攻撃的になっているが完全に悪人というわけではない、偏屈でいろいろとんでもないところはあるが人間味のある母親を大変厚みのあるやり方で表現している。正直、アメリカ映画でこんな美人でも薄っぺらでもない中年女性のキャラクターを見たのは久しぶりだ。友人のデニースや娘のアンジェラとの会話も、長くはないがとてもうまく書けている(このあたりでベクデル・テストはパスする)。たまに昼行灯みたいに見えることもあるが実際はとても懐が深いところもあるウィロビー署長を演じるウディ・ハレルソンや、アホで差別主義者だけどなんかちょっと憎めないところもあるディクソン(サム・ロックウェル)なども好演だ。またまた小人症のジェームズの役でちょっとピーター・ディンクレイジが出ていて、これもとてもいい役だった。