ユーモアのあるタッチだが、内容は予想以上に深刻〜『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』

 アリソン・ベクダルの漫画を舞台化したミュージカル『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』をシアタークリエで見てきた。小川絵梨子が演出を担当している。

 内容は大人になった漫画家のアリソン(瀬名じゅん)が過去を回想するというもので、子ども時代のアリソンと学生時代のアリソンに関する二つの時間の回想が交互に出てきて、最後は学生時代にアリソンの父ブルース(吉原光夫)が自殺するところで終わる。ブルースはクローゼットなゲイで、アリソンがレズビアンだとカミングアウトした四ヶ月ほど後に車の前に身を投げたのだ。

 全体としてはユーモアもあり、そんなに暗くならないようなタッチになってはいるのだが、予想以上に深刻な内容でずっしり来た。父であるブルースについてあまり包み隠さず、大変なことまで素直に描写しているのがまずきつい。高校の教員だったブルースは同性愛を隠しており、精神な抑圧が高じて教え子に手を出そうとして未成年に飲酒させた罪で逮捕される。同性愛で不倫をしてたくらいならまあありがちな話だが、教員が高校生に手を出そうとしたというのは実にショッキングだし、擁護できないと思う。そんなきつい話をけっこう淡々と描写したせいで、かえってつらさが増す感じだ。アリソンのカミングアウトの後にブルースが自殺してしまう展開も大変シリアスで、そんなことが起こったらもう人生の何もかもに対処できなくなるくらいショックを受けるんじゃないかと思うのだが、それでもアリソンは芸術家としてこの大問題に向き合おうとする。よく考えるととても重たい作品だが、面白いし、笑うところもあるし、バランスがとれている。

 大人になったアリソンの頭の中を示すような演出はとても気が利いているし、おそらく台本がよく出来ているのだろうと思う。演技も皆良かったが、とくにアリソンの恋人ジョーン(横田美紀)がとてもいいキャラだった。ジョーンが出てくるところは可愛らしい初恋物語なので、とても明るく楽しむことができる。