役者の演技に頼りすぎでぱっとしない〜『ロング、ロングバケーション』(ネタバレあり)

 パオロ・ヴィルズィ監督『ロング、ロングバケーション』を見てきた。2016年、マサチューセッツ州に住むアルツハイマー症のジョン(ドナルド・サザーランド)とガンのエラ(ヘレン・ミレン)の老夫婦が、大型トレーラー「レジャーシーカー」に乗り、子どもたちに黙ってフロリダにあるヘミングウェイの家まで最後の大旅行をしようとするというロードムービーである。

 主演の2人の演技は素晴らしい。かつては英文学教師で、調子のいい時は抜群のセンスを見せるが、普段はほとんど何も覚えていられないジョンを演じるサザーランドも、深く愛している夫がだんだん全てを忘れていってしまうことにはいらだちを隠せないエラを演じるミレンも、よく息が合っている。とくに、どこに行ってもヘミングウェイの話をしてしまうジョンの英文学教師っぽい感じは身につまされるところがある。
 ただ、全体としてはあまりにも役者の演技に頼りすぎで、脚本は甘ったるくイマイチだと思った。ドナルド・トランプの選挙運動が出てきて、民主党支持者なのにもう何もわからなくなってしまったジョンがなんか喜んで支持者の中に入っていくみたいな描写があるのだが、このへんは話にうまく取り込めているとは言いがたいと思う。落とし方も、まあジョンの生前の願いを違う形で叶えたとは言えるのだが、かなり安易でお涙頂戴っぽい。