オールフィメール、やわらかめの落とし方〜Tokyo International Players『ヴェローナの二紳士』

 Tokyo International Players『ヴェローナの二紳士』を見てきた。英語で上演する劇団で、120年もの歴史があるらしい。

 このプロダクションで面白いのは、オールフィメールだということだ。『ヴェローナの二紳士』には最後にとんでもない展開があり、おそらくシェイクスピア劇の中では『じゃじゃ馬ならし』の次くらいに男性の暴力に焦点をあてた作品だと思うのだが、それを全員女性でやるというのはなかなかいい発想だと思った。さらに役者陣も皆かなり上手で、主人公のヴァレンタイン、プロテュース、ジュリアを演じる3人をはじめとして、韻文の台詞などもそつなくこなしている。とくにヴァレンタインは、世間知らずではあるがいかにも颯爽とした若者に見えて、なかなかよかった。後ろに花の咲いた緑の壁(真ん中に入退場できる入り口がある)を配置して、若者たちの瑞々しい恋心を象徴させるセットも、シンプルだかけっこう気が利いている。

 問題になる最後の演出はかなりマイルドになっている。プロテュースがシルヴィアをレイプしようとするという暴力的な場面があるのだが、この演出では生々しい残酷な表現は避けている。プロテュースがわりと軽々しい男というキャラなのもあって、一応もみ合いにはなるものの、口先ではひどいことばかり言っているが本気でシルヴィアを強姦するつもりなのかはまだ…というくらいのところで激怒したヴァレンタインが入ってくる。さらに、突然ヴァレンタインがプロテュースにシルヴィアへの愛を譲ろうとか言い始めるところも非常にやわらかめの演出になっている。もともとここは「シルヴィアにあった僕のものは全部君にあげる」という曖昧な台詞で、シルヴィアを譲るのか、それともシルヴィアを愛していた気持ちと同じだけの気持ちでプロテュースを愛そうと言いたいのか、言い方によって違って聞こえることがある。このプロダクションでは、ヴァレンタインとシルヴィアの2人は愛が高まってハイテンションになっており、身を寄せ合った状態でヴァレンタインが軽い冗談みたいにさらっとこのあたりの台詞を流しているので、どちらかというとヴァレンタインがプロテュースを元通り愛そうと言っているように聞こえる。一方でジュリアはプロテュースの行動にすごいショックを受けており、プロテュースとジュリアの関係については暗い影がさした感じで終わる。

 全体的には非常に面白いプロダクションだったのだが、一箇所疑問だったのは山賊の演出だ。ヴァレンタインを迎え入れる山賊が突然西部劇のネイティヴアメリカンみたいな声を出したりするので、たぶん白人酋長ものをパロディ化したかったんだと思うのだが、いまいち演出が半端で、なんでネイティヴアメリカンの真似を急に始めたんだ…みたいな感じになってるのはあんまりよくない。もっと徹底的に戯画化して最後には山賊たちをカッコよくして終わらせるか、あるいはやめてもっとシンプルな山賊にしたほうがよかったと思う。