役者の演技に頼りすぎ〜『アバウト・レイ 16歳の決断』

 『アバウト・レイ 16歳の決断』を見てきた。

 ニューヨークのアパートで暮らすトランスジェンダーで16歳のレイ(エル・ファニング)、シングルマザーのマギー(ナオミ・ワッツ)、祖母でレズビアンのドリー(スーザン・サランドン)の関係を中心とする作品である。レイは女の子から男の子に性別を変更しようとしているのだが、マギーは昔複雑な経緯で別れた夫から承諾書をもらわねばならず、さらにドリーはイマイチ性別の変更のことがよくわかっておらず、偏見がある。いろいろなトラブルを乗り越えてこの家庭はどうにかやっていけるのか…という話である。

 主演の3人の女優の演技はとても良いのだが、主演女優が3人もいるというのが逆にこの話の問題になっているきらいがある。ティーンのレイの性別変更に関する悩みが中心なのか、マギーの過去の離婚問題が中心なのか、話の軸がけっこうズレているし、さらにドリーのキャラも相当に強烈なので、非常に詰め込みすぎの感がある作品になっていると思う。

 演技に頼りすぎであまりキャラクターが掘り下げられていないところがあるのも良くない。主要キャラは全員、台本がイマイチで全部演技力でねじ伏せているような感じがする。レイはエル・ファニングが演じているからなんとか奥行きが出ているものの、台詞や振る舞いだけ見ていると、いくら性別変更について悩んでいる情緒不安定な十代の若者だとは言え、イライラしてばかりであまり深みのないキャラクターだ。とくに、わざと男の子に過剰適応して周りの女の子について下品なコメントをしまくったりするところは最後に何かちょっと反省するとかいう回収があるのかと思ったら全然なく、キャラクターの発展がない。ドリーについても、たぶんオールドスクールレズビアンフェミニストなのでトランスジェンダーのことがなかなか理解できないんだろう…ということはうすうす想像できるのだが、そのへんが丁寧に描かれていないので、とくに最初のほうはただの頭の固いご老人みたいに見える。マギーが一番奥行きがあるとは言えるのだが、それにしてはじっくり時間をかけずに急いで描いているような印象だ。

 なお、この作品はベクデル・テストはパスする。マギーとドリーが母娘で話したり、ドリーとパートナーのフラニーが話したりするところはたくさんあり、男性以外の話題も多い。