世にも素晴らしき割れ鍋に綴じ蓋〜『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

 『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』を見てきた。カナダのノヴァスコシアに住んでいた実在のフォークアーティスト、モード・ルイスの伝記映画である。

 舞台は1930年代、ノヴァスコシアの小さな田舎の町、ディグビーとマーシャルタウンである。モード(サリー・ホーキンズ)は関節リューマチで足に障害があり、おそらくはそのためにかなり世間から隠されて育っていて、非常に浮き世離れした女性だが、絵を描くのが大好きだった。母親がなくなったため、兄のチャールズはモードの家を売ってしまい、モードはおばのアイダに引き取られることになる。しかしながらモードは自活を探り、魚売りのエヴェレット(イーサン・ホーク)が募集していた家政婦の職に応募する。最初はひどく冷たく暴力的だったエヴェレットだが、だんだんふたりは親しくなり、結婚する。モードの絵が観光絵葉書として売れることに気付いたエヴェレットは、モードの絵の才能を伸ばそうとしはじめる。

 おそらくかなり脚色はしてあると思われるのだが、エヴェレットとモードの複雑な関係の変化を丁寧に描いているところがとてもいいと思った。この2人は欠点だらけのカップルでぜんぜん美化されていないのだが、それでも見ていていい意味で割れ鍋に綴じ蓋みたいな、お互いがいなければやっていけない最高の割れ鍋と綴じ蓋なのだということがわかるようになっている。不思議な人間的魅力と才能でエヴェレットやお得意さんのサンドラ(カリ・マチェット)を自分のペースに巻き込んでしまうモードを演じるサリー・ホーキンズの演技はとにかく素晴らしい(モードとサンドラの絵についての会話でベクデル・テストはパスする)。一方のエヴェレットは、映画冒頭では極めて偏屈な人間で、世間にあわせられないという点ではモード以上だ。最初はモードに暴力を振るうなど、ひどくつらくあたる。それがだんだん、浮き世離れしたモードのペースにのせられて、だんだんモードと自分の間にある共通点のようなものを感じ取って変わっていくあたりが、イーサン・ホークの人間味ある演技でうまく表現されている。最初はいかにもオトコオトコした感じで強がっていたのに、モードの絵がお金になるとわかると才能を伸ばそうとしはじめ、結局創作の時間を作ってもらうために家事を全部自分で引き受けてしまうあたり、エヴェレットの「男性らしさ」に対する固定観念のようなものが変わっていく様子がユーモアをまじえて描かれている。モードと出会うことでエヴェレットは肩肘張らない自分らしい生き方を見つけられたし、モードもエヴェレットと出会うことで才能が開花したと言える。芸術や愛に関してちょっと楽観的すぎるヴィジョンを提示しているとは言えるかもしれないし、モードが足の障害をほぼ気力だけで乗り越えてやたらたくましく生きているあたりは少し美化があるかもしれないが、ホーキンズとホークの演技合戦を見ているだけで面白いので、そこはまあ文句を言わないことにしたい。

 モードの絵はいわゆる「アウトサイダー・アート」的な素朴な画風で好みが分かれそうなものである。田舎でひたすら絵を描いてる女性を扱ってるという点では、セラフィーヌ・ルイの伝記映画『セラフィーヌの庭』とかを思わせるところがあるし、ハイアートでは高く評価されないが人気のある女性画家を扱っている点ではマーガレット・キーンの伝記もの『ビッグ・アイズ』にもちょっと似ている。しかしながらこの映画はカナダが舞台だということがポイントで、海辺の田舎の風景がふんだんに使われているせいで、こうした先行作とは見た目の印象がかなり違うと思った。

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