話は悪くないが、字幕が最悪だった〜『アウトサイダーズ』

 アイリッシュトラヴェラーの一家を描いたアダム・スミス監督の映画『アウトサイダーズ』を見てきた。話は、実在するジョンソン一家の犯罪に多少基づいているらしい。

 アイリッシュトラヴェラーの一家、カトラー家の息子チャド(マイケル・ファスベンダー)は、家業である犯罪から足を洗って落ち着いて子どもを育てたいと考えていたが、父親のコルビー(ブレンダン・グリーソン)の反対を恐れてなかなか言い出せずにいた。それでも父の反対を押し切って堅気になろうとするが、大きなヤマを父親から押しつけられ、最後に一度犯罪に手を染めざるを得なくなる。しかしながら、チャドはその嫌疑で逮捕されてしまい…

 アイリッシュトラヴェラーはロマなど並べられることも多いブリテン諸島の非定住民族集団で、長年にわたり差別を受けている人々である。日本ではあまりなじみがないが、ボクサーのタイソン・フューリーとか歌手のシェイン・ワードアイリッシュトラヴェラーの出身だ。『スナッチ』でブラッド・ピット演じるミッキーがいた「パイキー」と軽蔑的に呼ばれる人々はトラヴェラーを指している。

 『アウトサイダーズ』は、一見犯罪映画っぽいが、内容的には家族の人間関係を描いたわりと地味な作品である。カトラー一家はトレイラーで暮らし、犯罪で生計を立てていて、わりとちゃんとしたカーアクションとかもあるのだが、話の主な関心はカリスマ的な犯罪者だが頭が古くて迷信深いところのある父コルビーと、頭の鋭さやカリスマ性では父親に大いに似ているが、もっと現代的な考え方を持っている息子チャドの葛藤にある。チャドは家父長としての権威を振りかざす父に反発しているが、感情的な絆までは断ち切れない。孫たちに迷信を植え付けようとする父親にチャドが辟易するあたりはどこの家庭でも起こりそうな問題だ。グリーソンとファスベンダーの演技は大変良いし、子役たちの演技も達者で、人間ドラマとしては地味ながらよくできていると思う。
 ただ、ちょっと犯罪映画と家族ドラマのバランスが悪いように見えるところもあるのと、あとアイリッシュトラヴェラーの家庭を非常に「どこにでもいる問題を抱えた家族」っぽく描こうとしているせいで、かえって背景を知らない人にはなんで彼らがひどい差別を受けているのかよくわからなくなっているところがあるのが良くないかもしれない(たとえばこの『ガーディアン』のレビューアメリカに住んでる批評家が書いたのだが、たぶんトラヴェラーについての映画だってわからなかったのではないかと思う)。なお、母と娘が会話するところでベクデル・テストをパスするかもしれないが、短すぎてちょっとパスと言えるか微妙な感じだった。

 しかも、少なくとも私が見た時は字幕が最悪だったので、そもそも日本語しかわからないとイギリスの話だともわからなかったかもしれない。音声ではお金の単位についてクイッド(ポンドを示す俗語)とかポンドと言っているところが、なぜかほぼ字幕が「ドル」になっていて、これは完全な間違いだ。また、カーチェイス場面でたぶん「酔っぱらいみたいに運転しろや」とチャドに対して冗談っぽく言っている台詞が「飲むなよ」になっており、これは誤訳とまでは言えないかもしれないが、パッと見だとさっきまでチャドが酒を飲んでいたのか?みたいに勘違いされるのであまりよくないと思う。ツイッターで既に映画を見た人たちが気付いて指摘しており、映画会社のほうも反応してくれたので、そろそろ直ってるのかな?