ちょっと何をしたかったのかはっきりしない〜『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』

 ソフィア・コッポラ新作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』を見てきた。『白い肌の異常な夜』のリメイクだそうだが、前作は未見である。

 舞台は南北戦争ヴァージニア州である。北軍の負傷兵マクバニーを近くの女学校の生徒が見つけ、学校につれて帰る。戦禍に脅えながら女学校で暮らしている7人の女性たちは、突然現れたハンサムなマクバニー(コリン・ファレル)のせいで心が動き、学校の雰囲気が変わっていくが…

 私は『ユリイカ 2018年3月号 特集=ソフィア・コッポラ』に執筆してるのだが、ソフィア・コッポラの映画が好きだとか面白いと思ったことは一度もない(才能は感じる)。この映画も全然面白くはなかった。

 とりあえず、やりたいことはわかるのだがあまり機能してないと思った。全体的に、ハーレムごっこをしたかったウザい男が報いを受けました、という話にしたい…のだとは思う。途中からどんどん図に乗って、いい男ぶってまだティーンのアリシアに手を出すマクバニーは超ウザいし、脅迫的に怒鳴り散らしたりするところは明らかに怖くて、私は個人的にコリン・ファレルが好きではないので、早く死なねーかなこいつと思って見ていた…のだが、一方で女たちの動揺の描き方がかなり表面的で、新しい要素の導入がうまくいってなくて単なる女怖い話に見えるところもある。とくにニコール・キッドマン演じるミス・マーサがマクバニーの足を切断するところとか、何か嫉妬とかもあって行動してるのか、単に目の前に大けがした人がいてパニクってるのか、マクバニーがレイプ犯だと思って怒ってるのか、内面の演出とかは一切ないし、その後マクバニーとか他の女性を相手にマーサが何か感情を吐露したりするわけでもないので、はっきりしない。服装や美術はキレイだし、ベクデル・テストもパスするのだが、こういう一見非常に性差別的な話をフェミニスト的に再話する映画を作りたいなら、ちゃんとした内面の演出やもっと気の利いた会話の導入をやらないとダメだと思う。

 あと、いくら南北戦争で過疎状態になった地域だとはいえ、あの規模の学校で女中さんがひとりもいないのはおかしいと思ったのだが、原作には存在していた黒人奴隷のキャラクターをなくしたかららしい。このせいでホワイトウォッシングだと批判されてるらしいのだが、奴隷がいなくなったことで話のリアリティは明らかに下がってると思う。南部のお嬢さんたちが通う学校でもともとはかなり大きな規模だったというなら、女中さんが最低ひとりはいないとおかしい。今の学校にだって用務員さんとかはいるのだし、方針で家事とかを教育カリキュラムに組み込んでいるとしても、こまごました学校の用事をこなしてくれる人が明らかに必要だ。