悪くはないが、デル・トロっぽくはない〜『パシフィック・リム:アップライジング』(ネタバレあり)

 『パシフィック・リム:アップライジング』を見た。『パシフィック・リム』の続編である。

 主人公は亡きペントコスト司令官の息子で、マコ(菊地凛子)の弟にあたるジェイク(ジョン・ボイエガ)である。ジェイクはイェーガーのパイロットを辞めて怪しい稼業をしながら気楽に暮らしていたが、自作の小型イェーガーを作っている少女アマーラ(ケイリー・スピーニー)と会ったことからもめごとに巻き込まれ、犯罪者として収監されるのを逃れるため再び軍に入らざるを得なくなる。一方、シャオ・リーウェン(ジン・ティエン)が率いる中国のシャオ産業は人が実際に乗らなくても操作できるイェーガーを開発しており、これを環太平洋防衛軍に売り込もうとするが…

 実は私が最近『トランスフォーマー』シリーズを全作見たのだが、それに比べると似た題材なのにはるかにちゃんとした映画だった。富士山のあたりの地理や美術や辻褄合わせがちょっとおかしいというのはツッコミどころだが、それでも『トランスフォーマー』シリーズに比べりゃはるかにマシだったので気にならなくなってしまった(他の映画をけなしまくって恐縮だが、同じような話なのになんでこんなに違うのかと思ってしまった)。前作のメインキャストで再登板しているのはマコの他、ニュートン(チャーリー・デイ)とハーマン(バーン・ゴーマン)の科学者コンビだけである。ジョン・ボイエガ演じるジェイクは、優秀なきょうだいの陰に隠れてちょっとばかり精神的なトラブルを抱えているという、多少前作のローリーと似たキャラだが、ボイエガの個性と演技のおかげで魅力的なキャラクターになっている。アマーラを演じているケイリー・スピーニーもとても上手だ(アマーラとヴィクの会話でベクデル・テストはパスする)。あと、シャオ・リーウェンが出てきた時にちょっと不安になったのだが、予想に反してこの手の映画では珍しく、やり手の女性社長/アジア人が黒幕で…みたいなステレオタイプになってないのは良かった(最後のリーウェンまわりの展開はちょっと強引だが、許容範囲)。ただ、前作では大活躍で魅力あるキャラクターだったマコが、ペントコストのかわりみたいな形でかなり悲惨な死に方をするのはちょっといただけない。

 ただ、全体的に前作にあったギレルモ・デル・トロらしさはほとんどなくなっている。監督はスディーヴン・デナイトに変わった一方、製作としてかなりデル・トロが関わっており、問題が起こるとデル・トロに聞いて撮影をすすめたりもしていたらしいのだが、出来上がったものにはデル・トロの作品によく見受けられる、ダークで生々しい質感とか、キリスト教的イメジャリーなどはほぼ見当たらない(怪獣が最後に巨大化するところの昆虫イメジャリーだけちょっとデル・トロっぽいかも)。前作の登場人物の扱いにしてもそうで、マコがあっさり悲劇的に死んでしまうところの撮り方や、ニュートンとハーマンの関係の変化の撮り方なども、デル・トロだったらもっとかなりしつこい演出と撮影で見せるのではという気がした。