『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のおともにどうそ!〜『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(ネタバレ)

 『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』を見てきた。リュック・ベッソン監督の新作で、この映画を作ったヨーロッパコープの屋台骨が傾くレベルで大コケしたSFである。

 舞台は西暦2740年。主人公である捜査官ヴァレリアン(デイン・デハーン)とローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)は、千の惑星の首都アルファで陰謀と戦うべく調査をするが…

 これ、かなりの予告サギで、なんか予告で台詞の英語と字幕がミョーにあってないなと思ってたところ、実際に見てみたら「千の惑星」が襲撃される話とかではなかった。たくさんの種族が集まる大都市を守るための活動をするわけだが、別に惑星自体を千個救うとかではない。都市の環境汚染を調査したら軍のトップの汚職問題が出てきたという、話だけ聞いたらシリアスドラマみたいな内容である。しかしながら全然内容はシリアスドラマとかではなく、とにかくツッコミどころ満載のゆるいSF活劇だ。しかもコメディであるわりに時々スベってる。

 話はとにかくどっからツッコめばいいのかわからない。冒頭、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」にあわせて宇宙開発の歴史が説明されるシークエンスは、それ自体はとても良く出来ているのだが物語に全く貢献しないので全部いらない、というか、お前「スペース・オディティ」をかけてカッコいいシークエンスを見せたかっただけだろって感じで正直たるい(しかし、これまた最近私が見てきた『ワンダーストラック』を撮ったトッド・ヘインズリュック・ベッソンとは「スペース・オディティ」、ジェームズ・ガンとは「フォックス・オン・ザ・ラン」で選曲がかぶって気の毒だ)。デイン・デハーンが女好きの捜査官というのはミスキャストだし(どう見ても個性が若々しくて暗すぎる)、ヴァレリアンがローレリーヌを口説くところの脚本がスカスカすぎてヴァレリアンがなんかイヤな奴に見える。ローレリーヌがつかまって食われそうになるところはあまりにも展開が古くさくて、まったくいつの映画だよという感じだ(ちなみにベクデル・テストはギリギリでパスしない)。さらにリアーナ演じるバブルはいい役なのに、出てきてちょっと活躍してやたらあっさり死んでしまう。

 とはいえ、全体として監督もスタッフもキャストもおそらく大変楽しんで好きなことをやって作った感じが満ち満ちており、そのせいかダメ映画ながらもなんとなく愛嬌があり、ひどいところがたくさんあっても不愉快にならずに笑って楽しめる。やたら派手で何かキメて作ったのかというような映像は好き嫌いがわかれそうだが、私は面白いと思った。またまたリアーナがやたら華麗なバーレスクをして、さらに濃いシェイクスピアネタ(死の直前にクレオパトラの扮装をして『アントニークレオパトラ』のアントニーの台詞を言うという、芝居好きなら絶対面白いネタが!)までかましてくれるので、それだけでも金を払う価値があった(ただし、このリアーナのダンスシーンは全く映画の展開に貢献しないのだが)。そして私は実はこの前に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を見ており、こちらは大変複雑で綿密でシリアスで暗いSF映画だったため、『ヴァレリアン』を見てかなり頭の中が浄化された…というか、愛嬌のあるバカSFに浸かったおかげで『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編を見たいという渇望がかなり抑えられた。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を見て暗くなった人には絶対オススメする。