野球がわからなくても面白い〜『テイク・ミー・アウト』(ネタバレ)

 リチャード・グリーンバーグ作、藤田俊太郎演出『テイク・ミー・アウト』を見てきた。
 舞台は2003年、アメリカのメジャーリーグである。エンパイアーズという架空の野球チームを舞台に、母がアフリカ系、父が白人であるスター選手のダレンがゲイだとカムアウトしたことからチームに波風が立ち、最後は警察沙汰まで発生する。

 ホールの真ん中に箱のような舞台を設置し、選手のロッカーを模した可動式のボックスを役者が動かしていろいろな場所を設定するという形式のである。客席は箱の長辺側、つまり二方向から舞台を囲むように設置されている。台詞が非常に多い。

 野球への情熱というのがテーマのひとつで、選手たちが野球に注ぐエネルギーはもちろん、ダレンがカムアウトしてから野球を見るようになったゲイの会計士メイソン(玉置玲央)が初心者なりにいろいろ野球の象徴などを研究するところがポイント…なのだが、野球がわからなくても全然楽しめる。私は全く野球がわからないのだが、それでも面白く見ることができた。まあ、ルールだけじゃなくアメリカのメジャーリーグの文化とかがわかったほうが明らかに面白いだろうという気はするので、ちょっと全部理解できたのかは自信がないのだが…

 基本的には群像劇で、それぞれの登場人物の行動や心境を会話やモノローグも使って表現していく。エンパイアーズはアメリカ合衆国におけるセクシュアリティ、人種、生まれ、宗教を表現する縮図のように描かれており、かなり密度の濃い芝居である。主人公のダレンがマルチレイシャルだというのはもちろん、マルティネスとロドリゲスというラティーノの選手がおり、この二人はスペイン語第一言語だ。他の人に聞かれたくないことはスペイン語でしゃべり、多少スペイン語がわかるキッピー(味方良介)が通訳するのだが、ひどいことを言っているのをかなりやわらげて即席でキッピーが訳すところなどは笑ってしまう。一方で日本人の選手カワバタ(竪山隼太)は無口で、いろいろな鬱屈を抱えている。しかしながらダレンのほうから見ると、第一言語を同じくするシェーン(桑原類)やデイヴィ(Spi)とのほうがむしろ通じ合えないところがあるというのがなかなか深刻でもある。その中でなんとかチームの人間関係を保とうとするが結局はうまくいかなくなってしまうキッピーはとても気の毒なキャラだ。一方、ユダヤ系で野球は初心者であるメイソンは外からメジャーリーグのチームを見ている立場であり、ここから部外者の視点も提供される。多角的で重層的な芝居である。