ふつうの男の子〜『娼年』

 『娼年』を見てきた。原作は未読で、舞台版も見ていない。

 主人公はすごく早稲田っぽい大学(名前は変えてあるけど、どう見ても早稲田だろう)の学生であるリョウ(松坂桃李)である。ほとんど大学にも行かず、バーテンのバイトをして暮らしているが、何もかもつまらない。同級生のめぐみ(桜井ユキ)はどうもリョウが好きらしく、ノートを持ってきてくれるが、リョウは気にしていない。そんなリョウに、男性の売春を斡旋するクラブを経営している静香(真飛聖)がアプローチしてくる。静香のスカウトにより、リョウは女性向けの売春を始めるが…

 映画として面白いのかと言われるとよくわからない…というか、ところどころ「これは要らないんじゃないか」と思うような描写があったり(静香とリョウが最初に車で移動するところ、通過地点の場所をいちいち字幕で入れるのは要らないだろう)、あと性描写はすごくリアルなところがある一方で、「そんなに指をガシガシしたら絶対痛いだろう」とか全然リアルと思えない描写もあって、ちょっとちぐはぐな感じがした。あと、個人的に、リョウは大学行かなすぎだろと思った(これは職業病でそう思うのだが)。あと、ベクデル・テストはパスしない(さくらと静香以外は女同士の会話がなく、2人の話もリョウについてだ)。

 ただ、私は今『ヘンリー五世』の授業をやってて、松坂桃李がヘンリー五世を演じるのでちょっと授業ネタを仕入れたいという気持ちがあってこの映画に行ったのだが、その点では松坂桃李という役者の個性についてすごく考えさせられるところがあった。この映画では松坂演じるリョウは、同僚でマゾヒストである東(猪塚健太)から「ふつう」だから売れるだろうと言われる。この映画に出てくるリョウはすごくハンサムなのだが、全体的に非常に「ふつう」感のある青年だ。そういう「ふつう」の青年がいろいろな女性の欲望に職業として付き合うという「特別な」責任を負うことがこの映画の目玉である。これは『ヘンリー五世』を考える時に補助線になると思う…というか、『ヘンリー四世』の時から、松坂桃李のハル王子はこの役柄にしてはふつうの青年っぽいというか、生まれながらにして王子だというよりは、どこにでもいるような若者が重い責任を負わされているような感じがあったと思う。これが『ヘンリー五世』でうまく機能すればきっといい意味ですごく個性的な国王になるだろうなと思う。この「ふつう」感がこの人の面白いところなのではと思った。