エリートのためのエリート諷刺〜『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

 リューベン・オストルンド監督『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を見てきた。

 舞台はストックホルムのXロイヤル美術館で、主人公はそのキュレーターであるクリスティアン(クレス・バング)である。この超オシャレな現代美術館であるXロイヤル美術館は「ザ・スクエア」という、四角いエリアを作ってその中を「信頼と思いやり」の場所に定めるという展示を中心にした展覧会を企画している…のだが、私生活がメチャクチャなクリスティアンが仕事を怠ったせいで、広告業者がブチあげたキャンペーンが大炎上してしまう。

 全体的には、エリート的なアート界とその外のギャップに関する諷刺なのだが、見ていてそんなに面白いと思わなかった…というのは、結局これを見て全部わかるのもエリート的なアートに親しんでる人だけじゃないかという気がしたからである。いかにも「現代アート」っぽい発想で日常生活の危機に対処しようとしたクリスティアンがどんどんトラブルに巻き込まれたり、全然アートのことがわかってるとは思えない広告業者が作ったビデオが大炎上したり、細部にはリアリティがあって笑えるところも多いのだが、一方でなんというか、「自分たちを笑える自分たち凄いでしょ」的なものを感じてかえって嫌味に思った。と、いうのも、私は一応学芸員資格があるのでまったく美術館に行かない人よりはまだ少しばかりは美術館の展示のやり方がわかるほうだと思うのだが、それでもあまり現代美術のことは詳しくないので、「これたぶん業界人だとスっとわかるんだろうけど何が面白いのかわかんない」というところがけっこうあったからである。クリスティアンがアンに美術館のウェブサイトにあった意味のよくわからない解説を説明しようとするところとか、たぶん美術を多少勉強した人でないと何が面白いのが全くわからないと思う。あと、なんであんなにキュレーターが前面に出てきてアーティストが後回しなのかとか、ビデオは炎上するのにイベントのパフォーマンスは炎上しないのはどうしてかとか、もっと美術に詳しい人なら何か意味がわかって面白いのだろうと思うのだが、個人的にそのあたりの細かいニュアンスがよくわからなかった。

 なお、ベクデル・テストはパスしない。女性同士で話すところがほとんどなかった。